「イヤなら問題は大きくなるわよ。ほら、早く」

刑事が容疑者を問い詰めるように、有無を言わさない口調で兼子先生は言った。

一瞬迷ったが、ここで反抗しても仕方ない。


だって、あたしは盗んでいないのだから。


あたしは、財布を取り出すと兼子先生に渡した。

千夏のようなブランドの財布じゃないから恥ずかしい。

受け取った財布を乱暴に開けると、兼子先生は中身を確認した。

「お札は入ってないわね」

「盗んでいません」

何度言ったのだろう。

悔しくて涙がこぼれそう。

「フン」

兼子先生が投げるように財布を返してくるので、それをカバンにしまう。

「先生」

その時、泣き声をあげてばかりだった千夏が先生の耳に顔を寄せた。