「うわあああ!」
叫びながら急ブレーキをかける。


カチャ カチャ


なぜか、ブレーキがかからない。

何度も握るが、まったく反応してくれない。

ふいにメットの中に生臭い匂いが立ち込めた。

恐る恐るミラーをもう一度見た俺はさらに悲鳴を上げる。

純子の目は、真っ黒く塗りつぶしたようになっていたのだ。

「ぎゃああああ!」

叫ぶ俺の背中に重みが。

純子の長い髪の毛が俺の肩にかかった。

「哲也くん」

スピードが出ているのに。

メットをかぶっているのに。


純子の声は、耳元でハッキリと聞こえた。