後ずさりする私の耳元に生暖かい空気がかかった。

「あたし、純子だよ」
すぐ近くで声がして、
「わああああああ」
私はドアに背中からぶつかった。

目の前には、純子が立っていた。

「渚、会いに来たよ」
そう言って笑う純子の目は、人間のものとは思えない。

真っ黒くえぐられているふたつの穴。

「ウソだろ……。なんだよ」

ドアのカギを後ろ手で回そうとするが、ピクリとも動かない。

恐ろしいほどの寒気が体を覆う。

「ねぇ、渚……教えてほしいの」

ユラユラと揺れながら、純子は私に近づいて来る。