鏡は、立っている警察官に何か指示を出していたかと思うと、また自動ドアの方へ。

一瞬立ち止って、振り返った鏡と目が合う。
黒縁メガネの奥で目を細めると、小走りで私たちの元に駆けて来た。

「橘 遙香さん?」

驚いた。

フルネームで覚えているなんて。

うなずく私の横で、太一が、
「なにかあったんですか?」
と、尋ねた。

鏡は、迷ったような表情を見せたかと思うと、
「いや、ちょっと事件があって」
と、言った。

そして、また私を見る。

「どうしてここに?」

「今、お葬式の帰りなんです」
そう言うと、
「ああ……。だからか……」
と、ひとりごとのように言った。