「な、なに見てるの?」
ソファを占領されているから、突っ立ったままあたしは尋ねた。

「……別に」

今日は機嫌が悪いんだな。

ううん……、今日も、か。

「そうなんだ」
明るく声を作ると、あたしは台所へ行く。

お弁当箱をカバンから取り出すと、それを洗い出す。

クーラーをつけていないリビングは秋といえど蒸し暑い。

いくら窓を開けていても、空気がよどんでいるように思えた。

水が気持ちいい。


洗いながら、さっきのことを思い出す。

千夏に財布を返したのはいいけれど、なんとなく気にかかる。

まさか、あたしを疑ってるってことはないんだろうけど……。