「純子、なにやってんの?」
柴田千夏は、表情を変えずにそう言った。

「あ……。わ、忘れ物しちゃって」

あはは、と笑ってみるけど、絶対うまく笑えていない。

「どうしたんですか?」
千夏の後ろから、大河内美鈴が顔をのぞかせた。

丸いメガネで三つ編み。

典型的なマジメタイプで、学級委員も自分から手を挙げて立候補したくらい。

大河内美鈴もあたしの顔を見て目を丸くしている。

柴田千夏は、あたしの方へゆっくり歩いて来ると、
「その手に持ってるの、あたしの財布なんだけど」
と、あたしの右手を指した。

「あ……」

言われて気づく。

そうだ。

教壇の上にあった財布を手に取ったところだったんだ。