「冗談だろ?」

「いえ、私は冗談が嫌いですから」

「じゃあ…」

本当なのか? という言葉を飲み込んだ駿が紗栄子を見つめる。

紗栄子は軽くうなずく。

「長い髪の女の子が…」

「やめてよ!」

いつの間にか私は叫んでいた。

それは怖さからではない、せっかくの楽しい時間が台無しになることへの怒りだ。

すぐにハッと気づいて口を押えた。


「…ごめんなさい」


「…いいんです。私こそおかしな事を言いました。申しわけありません」

頭を下げた紗栄子は、ひとつ肩で息をした。


それから下に戻るまでの間、特に駿と言葉を交わすこともなく、無言で景色を見た。