それは波のように次々に押し寄せてくる。

・・・私は、なにを忘れているの?

私の苗字は、なに?

下沼さんは手を握ったまま、私の耳に顔を寄せて言う。

冷たい息が耳にかかった。


「あなたの名前は、下沼咲弥」


「下沼・・・咲弥・・・」


「私は、あなた。あなたは、私」

意味がわからない。

私は首をブンブンと振った。

汗が次から次へと流れ落ちる。

そんな私をしばらく見ていたが、下沼さんは、
「ここ、覚えているでしょう?」
あたりを見回しながら微笑む。