「下沼さん」
そう声をかけると、懐中電灯の光が一瞬ピタッと止まった。

「萌絵だよ」

そう名乗ると、
「あ」
という小さな声とともに、また近づいて来る。

「萌絵」

ホッとしたような声。


下沼さんは、萌絵を呼び捨てにする。

それは、誰からもそう呼ばれたくて、最初に会った人に萌絵がお願いしていることだった。

「お疲れ」

そう言うと、ようやくその表情が見えた下沼さんが、泣き笑いでそばに来る。

「大丈夫だった?」