「自転車2人乗りだよ。いつからそんな仲になったの?」

「知るかそんなの」
俺だって知りたい。

「あの子のウワサ知ってる?」

「何?」

「あの子……いつも長袖着てるよね」

ためらいがちに七瀬が言うので、ふと俺は考える。

そういえば
暑さを感じないのか
汗ひとつかかず
いつも涼しい顔をして長袖を着ていた。

どんなに暑くても
制服の下は長袖のブラウス。
体育も長袖のジャージを着て

今日も
長袖のパーカーだった。

「あの子の腕の内側。リスカの痕があるんだって」

子供が先生に訴えるように七瀬は言う。

その目は必死で
俺をまっすぐ見ていた。

リスカの痕?

須田凪子の腕に?

「細い傷跡がいっぱいあるんだって」

「ただのウワサだろうバカバカしい」

「さっちんが見たって言ってたもん」

「あいつ大げさだから」

「こんな田舎に来たのは、悪い事して逃げて来たんだよ」

「おまえいい加減にしろよ!」

長い付き合いになるけど

俺が七瀬にこんな風に怒鳴るのは初めてで

七瀬が人の悪口を俺に言うのも初めてだった。





何かが

狂ってきている。