マンションのエントランスを出たところで、あたしは一度足をとめた。





床にハイヒールを放り投げ、足で転がして向きを整え、ぐいっと履く。





そして、ゆっくりと視線をあげて、蓮見の部屋を見た。






もしかして、ベランダから見送ってたりするんじゃないか、とか思ったあたしは、もちろん浅はかだ。





ちなみに、追いかけてくる足音も、もちろんしない。







「………ばか蓮見」







地面に向かって小さく呟き、あたしはとぼとぼと歩き出した。







…………あーぁ、やっちゃった。





あんなことやるつもりも、言うつもりも、まったく無かったのに。






自分の気持ちを抑えられなかった。