「橘さん」
助教室の本棚をひっかきまわして学生から頼まれた文献を探していると、入り口のドアが不意に開いて、名前を呼ばれた。
振り向くと、この国文学専攻に所属している六人の教授・准教授たちの中で最も重鎮の磯辺教授が、ひょっこりと顔を覗かせていた。
「磯辺先生、おはようございます」
あたしはぱっと文献を片付け、丁寧に頭を下げる。
教授がたの機嫌をとるというのも、助教の仕事なのである。
「うん、おはよう。あのねぇ橘さん」
満面の笑みを浮かべている磯辺先生。
嫌な予感しかしない………でも、そんなことはおくびにも出さず、あたしはにこやかに答える。
「はい、なんでしょう」
「今日、例の新しい院生くるからね」
磯辺先生の言葉を聞いて、あたしは先月のうちに先生からうかがっていた話を思い出した。
「あ、たしか、D大学から転入してくるとかっていう………」
「そうそう。優秀な学生だから、しっかり対応しないとね。じゃ、専攻の説明とか施設の案内とか、いろいろよろしくね」
磯辺先生はひらひらと手を振って、「頼んだよ~」というセリフを残して助教室から出て行った。
助教室の本棚をひっかきまわして学生から頼まれた文献を探していると、入り口のドアが不意に開いて、名前を呼ばれた。
振り向くと、この国文学専攻に所属している六人の教授・准教授たちの中で最も重鎮の磯辺教授が、ひょっこりと顔を覗かせていた。
「磯辺先生、おはようございます」
あたしはぱっと文献を片付け、丁寧に頭を下げる。
教授がたの機嫌をとるというのも、助教の仕事なのである。
「うん、おはよう。あのねぇ橘さん」
満面の笑みを浮かべている磯辺先生。
嫌な予感しかしない………でも、そんなことはおくびにも出さず、あたしはにこやかに答える。
「はい、なんでしょう」
「今日、例の新しい院生くるからね」
磯辺先生の言葉を聞いて、あたしは先月のうちに先生からうかがっていた話を思い出した。
「あ、たしか、D大学から転入してくるとかっていう………」
「そうそう。優秀な学生だから、しっかり対応しないとね。じゃ、専攻の説明とか施設の案内とか、いろいろよろしくね」
磯辺先生はひらひらと手を振って、「頼んだよ~」というセリフを残して助教室から出て行った。