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その後も、南くんの生態に関しては、とにかく驚きの連続だった。
初対面の翌日、まだ学生たちもまばらな朝8時に、南くんは研究室のドアを開けた。
「南くん、おはよう。早いね」
と声をかけたあたしは、南くんの肩にかかっていた「あるもの」に目を奪われた。
それは、小さめのボストンバックくらいのサイズの、横に長い長方形の、深緑の布地に黒い持ち手がついた、肩かけかばん。
それはいいんだけど。
とにかく、筆舌に尽くし難いほどに………ぼろぼろで。
汚れて、色あせて、擦り切れて、穴が空きかけている。
そして、横腹の部分にプリントされている白い文字は剥がれかけている。
その文字に目を凝らしてみると。
―――『A中学校』
その隣に、オレンジ色の糸で刺繍されているのは、ぼろぼろにほつれて消えかけているけど、たしかに何かの文字で。
じいっと凝視すると、こう書かれているのが分かった。
『南 裕紀』
まぎれもなく、南くんのフルネームである。