吾郎は、今まで見たことないくらい気の抜けた顔で、ぽかんとしている。





あたしは追い打ちをかけるように、さらに言葉を紡ぐ。







「吾郎、ここから出て行って。

そして、二度と、あたしの目の前に現れないで」







吾郎がゆっくりと瞬きをした。




そして、囁くように言う。







「………なんで、急に、そんなこと……」







あたしはボストンバッグを吾郎に無理やり持たせた。







「申し訳ないことしたって反省してるけど、あたしね、吾郎のケータイ勝手に触って、ライン見ちゃったの。


………こう言えば、分かるでしょ?」







吾郎の顔色が、初めて変わった。





いつも満面に貼りつけられていた人懐っこい笑顔が消えて、余裕をなくした顔。






あたしは、初めて、吾郎の本当の顔を見た気がした。