その日、あたしはいつもより少し早めに会社を出た。




最寄り駅で電車を降り、急ぎ足で家路を歩く。





部屋に入り、クローゼットの中にしまいこまれていたボストンバッグを探し出した。




大学生の頃、一週間ほどのサークルの合宿のために買った大きな旅行用かばんだ。






その中に、衣類や雑貨やマンガなどを、ぽいぽいと放り込んでいく。





部屋がすっきりして、ボストンバッグがぱんぱんになった頃、玄関の鍵を開ける音が聞こえた。






あたしはボストンバッグを持って立ち上がり、すたすたと玄関に行った。




ドアを開け、顔を出した吾郎に、黙ってバッグを突き出す。