一瞬、通話ボタンを押しそうになったけど。




そこはさすがに思いとどまった。






着信のバイブは5コールくらいしたところで、ぷつりと切れた。





あたしはケータイをそっとポケットに戻し、コートをハンガーにかけ直して、ソファに戻った。






しばらくして吾郎が洗面所から出てきた。





あたしは何気ないふうを装って、「なんかケータイ鳴ってたよ」と声をかける。







「あー、そお? ありがとー」







吾郎はあっけらかんとした様子で言い、コートのポケットをまさぐった。







「あー、電話だー。


ちょっとかけなおしてくるね」






吾郎はそう言って、濡れたままの髪をバスタオルで拭きながら、ケータイを握りしめてベランダに出て、ドアをきっちり閉めた。