(どうか、鼻づまりで匂いが嗅げませんように)
祈るような気持ちで辺りを見回し、私がギリギリ入れそうな細長いロッカーに近づき、そっとドアを開けた。
運良く誰も使っていないと思われる、空っぽのロッカー。
その中に身を潜ませて、私は音を立てないようにそれを閉めた。
「まっかにまっかに……」
その声と共に、職員室のドアが勢い良く開けられる。
「そめあげっ!!」
「げ」の場所ではね返ったドアが戻って来たのだろうか。
ゴスッ! という鈍い音が、ロッカーの中にいても聞こえた。
その光景を想像すると、つい笑ってしまいそうになるけど、そこはグッとこらえて耳を澄ます。
こんな所で襲われたら、逃げるどころじゃないもんね。
ジッと動かずに、置物のように静かに。
息もなるべくしないで赤い人が過ぎ去るのを待つしかない。
とは言え、赤い人がこの部屋の状況をスルーしてくれるとは思えないんだけど。
「うぅぅ……ここに誰かいた? ……匂いが分からない」
ボソボソと呟くような赤い人の声が薄い金属の向こう側から聞こえる。
(よしっ! 鼻づまりキタ!!)
本当に鼻づまりかどうかは置いといて、それでも私がここにいる事が分からないというのは助かる。
胸の内の不安と恐怖が、安堵と期待に変わっていく。
もしかしたら助かるかも……と、私が油断したその瞬間。