「明日香さんとか高広さん達と行った時は盛り上がったのになあ……」


「あ、じゃあさ、お兄ちゃん呼ぶ? もうすぐ仕事も終わるし、誘えば来るよ」


「だってさ、どうする? 龍平」


なんて、聞くまでもないか。


お兄ちゃん、つまり武司さんの名前を出しただけで、マイクを持ったまま固まってる。


龍平があゆみにアプローチをかける事ができない理由が武司さんだから。


あゆみに好かれようと、武司さんを真似て不良っぽくしてはいるけど、龍平と武司さんでは格が違いすぎる。


静まり返った室内で、私は失敗したと後悔の吐息を漏らした。









「いやあ、歌った歌った。お前らも歌えよな。俺と留美子だけじゃねぇか」


カラオケが終わった私達は、駅の方に向かって歩いていた。


龍平がなぜカラオケに行こうと言い出したのか……何となく分かったような気がする。


あゆみに捧げるバラードを歌うために私達を誘ったのだ。


「龍平、もっと練習しないとね。音程もテンポもずれてたよ」


おっと、そのあゆみからダメ出しなんて……逆効果だったね、龍平。


「お、おぉぅ……今日は喉の調子が悪くてな……」


なんて見苦しい言い訳。