「今……何か言った?」
辺りを見回して、誰が言ったのかを確認するけれど、それらしい人はいなかった。
「何かって……何も言ってないけど。あ、風の音が何か言ってるように聞こえたんじゃないの?」
そうなのかな?
でも、夢の中の女の子が言っていたような気もするけど……誰もいないよね。
「空耳……かな。だったら良いや。早く学校行こ」
大通りに出て、学校に向かって歩いていると、他校の生徒も通学中で。
その中に、私の名前を呼んだ人がいないかと、チラチラ見てみるけど……それらしい人はいなくて。
「あー、降ってきたな」
高広の声で、我に返った私は空を見上げた。
ポツポツと降り始めた雨が、私の頬に当たって弾ける。
そして、徐々に強くなる雨に、慌てて傘を開いた私が、それを頭上に上げた時……その声は聞こえた。
「うわっ! やっぱり傘を持って来るんだった! 走るぞ滝本!!」
こんな空なのに、傘を持って出なかったバカがいるんだ。
他校の生徒だろうなと、声が聞こえた背後を振り返った私は……傘を落として立ち尽くした。