「そんな豆知識はいらないっての……これじゃあまだふたが開かないんだから、早く棺桶を出してよ……」


「人使いが荒いね、柊さんは!」


文句を言いつつも、ゴールが見えた安心感からか、八代先生の手は動き続ける。


私もやっとここまで来たと、ポケットから心臓を取り出した時……あの声が聞こえたのだ。














「どうしてどうしてあかくする~」














その瞬間から、風も吹いていないのに、木々がざわめき始めたのだ。


歌声が、前後左右あらゆる場所から聞こえていて、時間がない事は明白だった。


「せ、先生! 早くしてよ! 『赤い人』が!」


「分かってるよ! これでも精一杯やってるんだ!」


そして……。












この小さな広場に、ついに「赤い人」が姿を現したのだ。


「赤い人」の歌声に同調するかのように、激しく揺れ始める木々。


まだ棺桶は半分土がかぶっているのに……「赤い人」は足を止めようとしない。


「柊さん! 僕が止めるから、キミは続きを!」


「それは良いけど、先生なんかが止められるの!?」


スコップを私に手渡し、上着を脱いで腕を回す八代先生。