「さっさと行くぞ! 追い付かれないうちによ!」
「赤い人」をどうする事もできないと分かっている武司が車から飛び降りて、土手に着地する。
少し離れてるけど、あそこなら土に埋もれなくて済むし、すぐに逃げられる。
結子、八代先生、私と、次々と土手に飛び移り、残るは健司だけ。
「どうしたヲタク野郎! 先に上げろっつって、そこで震えてるだけかよ!!」
そう叫んで、健司に向かって手を伸ばした武司。
だけど、その手には目もくれず、健司は「赤い人」をにらみつけ、腰を落としたのだ。
「走れ! 俺が死ぬ前に!!」
そう言って、一気に道路まで跳躍した健司は、低く、重いうなり声を上げて「赤い人」に向かっていったのだ。
やっぱりだ……その光景は、両腕を失ってもなお、「赤い人」に体当たりをした時と同じ。
健司はここで、死ぬつもりなんだ。
「な、何考えてやがる……」
「行くよ! 健司に任せて!」
溢れそうになる涙を堪えて、私は山へと走り出した。
この世界で死んでしまったらどうなるのかな?