「聞こえなかったのか!! 死にたくなかったら……俺を上げろ!!」
健司と武司が話しているところなんて、今まで見た事がない。
初めての会話が、こんな怒鳴り合いとは。
でも、私は健司の表情に、ひとつの可能性を感じていた。
赤い人を足止めしてくれた時と同じ可能性を。
「武司! 健司を……」
「うるせぇな!! ふたりとも引き上げれば良いんだろうが!!」
そう言って、強引にふたりの手を引っ張る武司。
こんな時、高広や武司は頼りになる。
……それなのに八代先生ときたら。
「うーん! ま、まだかい、柊さん!!」
私ひとりくらい、簡単に引き上げてほしいもんだけど。
それでも何とか運転席側のドアから出た私は、車の枠に足をかけて、辺りを見回した。
すると……。
「あ~かい ふ~くをくださいな~」
車から20メートルほど離れた所を、「赤い人」が歩いていたのだ。
走って来る様子はない。
だけど、とてつもなくその一歩が大きくて、地面を滑っているような移動で私達に迫る。