「今じゃなきゃダメなの。留美子……お兄ちゃんを悪く思わないで。きっと、私に生きていてほしかっただけなの」
……?
あゆみが何を言っているのか、さっぱり分からないけど、悪く思わないでというのはね。
「分かった。悪く思わないよ」
意味不明だけど、あゆみの頼みならとりあえずこう言っておこう。
「……よし、いよいよ最後の仕上げだ。中に入るぞ」
私の手を取り、家に向かって歩き出した龍平。
その時。
「キャハハハハハハッ!!」
背後ではなく、頭上からその声は聞こえた。
「向かいの家の屋根にいる! 上から来たんだよ!!」
私達の正面で、それを指差したあゆみ。
どおりで、背後から追いかけて来ていないわけだ。
背後どころか、私達のはるか上を移動していたのだから。
「くそっ!! 中に逃げるぞ! あゆみっ!」
龍平がそう言っても、あゆみはその場から動かなかった。
いや、動けなかったと言った方が正しいのか。
踏みしめられた草の上で、赤い人と向き合っているあゆみが、家の中に入るには振り返らなければならないのだから。