非力な女の子が、どうやってあんな狂暴な悪霊を足止めしてくれているのかは知らないけど、背後から追って来ているような気配を感じない。


「後少しだよ。頑張って!」


私が泣いているのに気付いたのか、あゆみが声をかけてくれる。


人の事を気遣ってる場合じゃないのに。


美紗の家に近付くという事は、終わりが近付くって事なんだよ?


あゆみも龍平も消えてしまうのに……。


それが私は、嫌でたまらなかった。


走り続けて、美紗の家の前に到着した。


夜だと言うのに全力で走ったせいで、汗が大量に噴き出している。


「追って来てねぇみたいだな。美雪がうまく引き付けてくれたのか」


後方を確認して、額の汗を拭った龍平が、肩を上下させて言った。


あゆみもひざに手を突いて、ハァハァと荒い呼吸音を出している。


「ね、ねぇ……留美子。ひとつお願いがあるんだけど……良いかな?」


そんなあゆみが、私に尋ねた。


こんな時にお願いって……もう、目の前に美紗の家があるのに。


「今お願いされても無駄なんじゃない? まあ、この際だから言ってみなよ」


フーフーと、私も呼吸を整えて返事をする。