「……心臓はあなたに託したわ。それをあの壷に入れて、元の世界に戻ったら、今度は心臓を美子に返して」


そう言って、美紗は校舎へと向かって歩き始めた。


私達に言っていた通り、赤い人に殺されにいくんだ。


「ちょ、ちょっと待ちなよ。美紗が死ななくてもさ……どうにかして、呪いを解く事ができないの?」


これでお別れなんて、あまりにも実感がなさすぎるし、美紗がいなくなるなんて考えられない。


でも、美紗はゆっくりと振り返って、私を見つめると……その目から、一筋の涙を流したのだ。


「それは無理。ここは袴田君の意識の中、美紀が逃げ込んだ先の世界だもの。この世界では、呪いを解く事なんてできないの」


それは聞いたから分かってる。


分かってるけど……ここに来て誰とも別れたくないという気持ちが強くて。


納得なんてできなかった。


「柊さん……私を、呪われた血から救って。美子に、安らかな眠りを与えてあげて」


悲しげな表情で呟いた美紗に、もう何も言えなくて。


駆け出した私は、美紗をギュッと抱きしめた。


これくらいしか私にはできる事がない。


こんな事をしたって、何も変わらないんだろうけど。