「あー……そういえば。誰かいそうな匂いがする」
鼻をスンスンと鳴らし、赤い人がうれしそうにそう呟いたのだ。
これだよ!
さっきまで赤い人は、匂いを嗅ぐという行動を取っていなかった。
つまり、今スイッチが入ったって事で、ここからが本番なのだ。
「向こうから……匂いがするよ?」
赤い人がそう言った瞬間、バタバタと音を立てて龍平と健司が二階に駆け上がる。
え? え? 離れてるから、逃げるタイミングが分からないよ!
ふたりは逃げたけど、私は逃げ遅れて。
「キャハハハハハハッ! いたいたっ!!」
赤い人がその足音に気付いて、ステージに向かって走り出す。
私は……逃げるタイミングを完全に失って、カーテンに身を寄せて震える事しかできなかった。
まだ赤い人を見てはいない。
でも、このまま死ぬくらいなら見た方が……。
そう考えている私の横で、ドンッ! とステージの床が鳴った。
心臓がドクンと音を立て、全身に冷たい感覚が広がる。
動くな、音を立てるな、息をするな……。
昔、誰かに言われたその言葉を思い出して、私はその通りに息を止めた。