そう思って、横を通り過ぎようとした時だった。
「留美子っ! 危ねぇっ!!」
「え?」
龍平がそう叫んで、私を突き飛ばして。
せっかく買ったお弁当を、地面に散乱させて倒れた私は、状況を飲み込めないまま起き上がって背後を見た。
「いたた……って、何すんのよ! お弁当が……」
そこまで言って、私は目の前の光景に言葉を失った。
光の中のふたりの影。
武司さんに支えられて、龍平が立っているようにも見えるけど……そうじゃない。
何かが、武司さんの右手に握られていて……そこから、ポタポタと地面に滴り落ちる液体。
透明感がなく、地面を赤く染めるそれが、血だと気付いた時。
ダラリと力なく、龍平が倒れたのだ。
「お、お兄ちゃん? 嘘だよね? な、何してるのよっ!」
私達を見下ろす武司さんの手に握られていたのは包丁で……それで龍平を襲った。
あゆみの言葉も届かない様子で、冷たい眼差しを私に向ける武司さん。
「あ……ああ……。龍平、何寝てるのよ。冗談でしょ? どうしてこんな事になるのよ……」



