ソムチャイ・・・。
あなたに会いたい。
もう、あなたに会いたくてたまらないよ。
声は嗚咽に変わり、それでも花火から目が離せない。
ソムチャイの笑顔。
青い空。
光る海。
抱きしめられた感触。
すべてがあふれ出て、こぼれ落ちてゆく。
会いたくて、会いたくて、会いたくて。
でも、会えなくて。
ソムチャイ、これから何度あなたを思い出すのだろう。
夏が来るたび。
海を見るたび。
空が青いたび。
こんなに誰かを好きになんて、もうなれないよ。
ソムチャイ。
ソムチャイ・・・。
ドンッ
パラパラ
次々に打ちあがる花火。
ソムチャイ、あなたが教えてくれたんだね。
・・・ねぇ、今同じ花火を見ている?
私は海のそばから見上げているよ。
ソムチャイは空から。
一緒に花火を見る約束は、こんな形で叶ったんだね。
ひときわ大きな花火のあと、火薬の匂いが漂う。
海は夜に染まり、
そしてもう、花火はあがらない。
私は声をあげていつまでも、ソムチャイを想って泣いた。
エピローグ
結婚式はサムイ島でおこなわれた。
ソムサックには親族は少ないらしく、メオ一家が参列している。
うちは、私とお母さんと・・・。
「ねぇ」
「・・・なんだ」
私はこれみよがしにため息をついた。
「一応結婚式なんだからさ。少しは愛想笑いでもいいからしてよ」
「ふん、もともとこんな顔だ」
そう言うと、お父さんはビールを一気飲みした。
・・・まったく。
ほんっと、子供なんだから。
「だいたい、俺は今でも反対だ」
「赤ちゃんまでできたんだよ?」
「知らん」
お母さんは写真を撮ろうと、お姉ちゃんのそばに行ってしまった。
それにしても・・・。本当に今日のお姉ちゃんはキレイ。
あんな悲しいことがあったのに、ソムサックとお姉ちゃんは気丈に式をおこなっている。
それは、強さだ、と思った。
横を見ると、仏頂面のお父さん。
「はぁ。もう、いい加減にしてよ」
「ふん」
「あっそ、じゃあいいよ。全部ばらしちゃうから」
最終兵器投入。
「・・・なにが?」
「渡辺社長、知ってるでしょ?」
「ぶ」
椅子からずり落ちそうになり、驚く顔。
ほんっとわかりやすいんだから。
「な、なんのことだ」
「お父さん、私に隠し事なんて100年早いんだから。お父さん、サムイ島に最近来てないってウソついたでしょ」
「・・・ウソなんて」
ごにょごにょとつぶやくように言う。
「この間、ビッグブッダの話してくれたでしょ? あの時からヘンだなーって思ってたんだよね。だって、ビッグブッダの後ろにある龍はつい最近つけられたものなんだよ」
そう・・・ソムチャイが教えてくれたんだ。
「グ・・・」
ヘンな声を出してお父さんが返答につまった。
「お父さんは、お姉ちゃんが心配でサムイ島にも来た。そしたらお姉ちゃんはスーパーでレジなんてしてた。そりゃ心配よね?」
「だ、だからって」
「昔の部下だった渡辺さんに事情を話して、会社を興そうとしたときにお姉ちゃんをスカウトしてもらった、違う? お姉ちゃんを近くで見守ってほしかったんだよね?」
お父さんがビッグブッダのことを話した時に、霧が晴れたようにわかった。
それから、お父さんの会社の役員名簿やアドレス帳を調べてみた私は、そこに渡辺社長の名前を見つけた。
「お父さんの誤算は、渡辺社長が独身だったってこと。まさか、渡辺社長がお姉ちゃんに恋するとは思ってなかったのね?」
真っ青になったお父さんは、なにか言葉にしようとしたが、やがてがっくりとうなだれた。
「・・・そう。まさかウアンを使って、無理やりホテルを買収しようとしてるとは思わなかったんだ・・・」
「おかげで私は拉致されて、あわや殺されるとこだったんだからね」
「・・・すまない」
「これをお姉ちゃんが知ったらどうなると思う?」