スタ文編集部 特別座談会!「読むだけじゃない読書体験」小説コンテストのテーマについて

2025年11月

A:スターツ出版文庫創刊10周年の記念企画ということで、【読むだけじゃない読書体験】をテーマにした新しいコンテストが始まります!


一同:拍手


A:コンテストページの解説だけだと、どんな作品を求めているのかが分かりづらい…と感じている方も多いと思います。他社さんでヒットしている既刊を例に上げながら、具体的なイメージを編集部のみんなで話していきましょー!


一同:よろしくお願いしますー!!


A:まず今回は、読むだけじゃない、付加価値としての「体験」のアイデアを考えるという新しい要素が追加されましたね。


B:そうですね。ただ読むだけじゃなくて、小説に何か体験の付加価値を付けるってことですよね?


C:その体験ってどういうものを指すのか、でいうと、『世界でいちばん透き通った物語』(杉井 光/著・新潮文庫)の仕掛けは、読むだけじゃない読書体験の分かりやすい例ですね。


D:仕掛けについては公言できませんが、あの仕掛けには本当に驚かされました!まさに、紙でしか得られない驚きと経験


C:スターツ出版で刊行している『世界の色をすべて君に』(くじら /著・スターツ出版 単行本)「触れる」体験ですよね。目が見えないヒロインとの恋愛を描いた作品で、作中でたびたび点字が登場するのですが、ラスト1行の点字を帯の紙から実際に出っ張る形で入っていて。これも触ってもらえる仕掛け(体験)ですね。


A:けんご@小説紹介さんが紹介し、TikTokでバズった『残像に口紅を』(筒井 康隆/著・中公文庫)もそうですよね。文字の構成自体がトリックになっている。ストーリーの変化が目に見える変化として表現されている点が面白く、これも一種の体験ですよね。


B:体験の付加価値がある作品は、SNSで広がりやすい印象がありますよね!

『世界の色をすべて君に』(くじら /著・スターツ出版 単行本)

C:そういった仕掛け本がお上手なイメージがある作家さんでいうと道尾秀介さん。『N』(道尾 秀介/著・集英社文庫)『きこえる』(道尾 秀介/著・講談社 単行本)など体験が楽しめる作品が多い印象です。


B:『N』720通りの物語になる構成なんですよね。現在、ノベマ!で連載中のスターツ出版文庫11月刊『私を選べばよかったのに』(此見えこ/著・スターツ出版文庫アンチブルー)も、読者の選択によって結末が変わる「選ぶ」体験を楽しめる物語になっています。


A:読み方によって内容が変わる系譜の作品だと、『僕が愛したすべての君へ』『君を愛したひとりの僕へ』(乙野四方字/著・ハヤカワ文庫)『ぎんなみ商店街の事件簿 Brother編 / Sister編』(井上 真偽/著・小学館文庫)などの作品もありますよね。2冊が対になっていて、どちらから読むかによって内容がひっくりかえる、という仕掛け。


D:ホラーモキュメンタリーのブームは、まさに「体験」を軸に広がっていると感じます。その流れを作ったエンタメホラーの火付け役とも言える『変な家』(雨穴/著・双葉社 単行本)は、ただ読むだけではなく、読者自身が間取り図から謎を解き、真相へとたどり着く“体験型読書”の作品ですよね。最新刊の『変な地図』(雨穴/著・双葉社 単行本)も、今度はどんな仕掛けで読者を巻き込んでくるのか、とても気になっています。


B:梨さんの『お前の死因にとびきりの恐怖を』(梨/著・イースト・プレス 単行本)も印象的なのは、二次元コードを使った体験型の仕掛けです。実際にアクセスすると、オンライン上のデータにたどり着き、そこに用意された「ある音声資料」と「付随するテキスト」を確認することができるのですが、その内容にどこか食い違いがあり、読者に強い違和感を残す構造になっています。人に紹介するときも、「読むだけじゃなく、体験する仕掛け」としてつい話したくなる一作ですね。

『私を選べばよかったのに』(此見えこ/著・スターツ出版文庫アンチブルー)

A:あとは2024年の年末、バズりにバズった『マイブック』(大貫 卓也/著・新潮文庫)「書く」体験ですね!


B:品切れ店続出してましたよねー。もはや小説ではないですが、自分が著者になった気分が味わえる装丁が心くすぐりました。


D:他でいうとスターツ出版から8月に刊行した『私の恋のありがち帳』 (青春bot/著・スターツ出版 単行本)「書く」体験ですね。読むだけでなく、書く。自身の恋の悩みや気持ちを書き出すことで、それが整理されてちょっと楽になる。恋にも、自分にも前向きになれる。そんな本です。一方通行的に、読むだけでなく、自分の行動、敷いては今自分が生きているこの世界にまで、作品内容が波及する部分が魅力的だなと思っています。


A:読書が体験とセットになると、より作品を自分ごととして捉えやすくなるのかもしれないですね。

『私の恋のありがち帳』 (青春bot/著・スターツ出版 単行本)

B:定番の例だと、食もので実在するお店が出てくる作品は「行ける」体験だと思います。


C:確かに!本を読んで、作中に出てくる場所に行くまでがセットで楽しめますよね。聖地巡礼、最高です!ご当地作品だったら、観光ブックみたいになりますよね。


D:巻頭とかに地図とかつけてね。ミステリーだったら、地図片手に実際に犯行現場を検証できるとか、面白いですね。読者参加型小説


A:読者参加型いいですね!新しい証拠を見つけて投稿できる、とか?広がりそうです。自分が作品の一部になれる、登場人物になれる体験


C:ご当地だと、野いちごジュニア文庫『都道府県男子!』シリーズ(あさばみゆき/著)も、読者が推しメンの都道府県に行って、本や特典のしおりを写した投稿をアップてくれてますよね。


B:SNSの広がりに繋がる体験だと、理想的ですね!話していると、色んな体験の方向性があるなって。単行本で古典の超新釈シリーズを出していますが、「学ぶ」体験はどうですか?


C:「学ぶ」体験。確かに。中高生との読者座談会で読んだことがある小説を聞くと、『文豪ストレイドッグス』(朝霧 カフカ/著・角川ビーンズ文庫)と答える子が多いですよね。


A:文豪たちをキャラクター化するという発想が面白いですよね!結果的に少し文学に興味を持つきっかけになるという。近代文学の超新釈シリーズもいいかもですね。


B:野いちごジュニア文庫『あつまれ!元素くん』シリーズ(青井モネ/著)も、理科の要素を擬人化していて、イケメンを楽しみながら学べる、いいお手本ですね。


A:さまざまな体験アイデアが出ましたね!アイデアを考える参考にして頂けたら嬉しいです。ここに無い新しいアイデアも、ぜひ、お待ちしていますー!

『都道府県男子!』シリーズ(あさばみゆき/著・野いちごジュニア文庫)

『あつまれ!元素くん』シリーズ(青井モネ/著・野いちごジュニア文庫)

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