小出みきさんの作品一覧

有能すぎる押しかけ婿様に完全包囲されました

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青春・恋愛25ページ

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暖炉はある。火の気はないけれど。 没落した一条伯爵家で、澄乃はひとり針を動かしていた。亡き母から受け継いだ刺繍の腕だけが、身体の不自由な父と、古い屋敷と、年老いた女中を支えている。 薄暗い部屋で絹地に向かい、ひと針ごとに祈るように繍う。美しいものを生み出す手が、いつしか美しさを味わう余裕を失っていた。 そんな年の瀬の夕暮れ。 門の前に止まった黒塗りの自動車から降り立ったのは、若き陸軍少佐・橘朔也。 父の借財を肩代わりし、婿としてこの家に入ると告げた男は、書斎で向かい合った澄乃を無言で見つめた。 値踏みでも、好奇心でもない。 まるで、ずっと前から知っている誰かを確かめるかのようなまなざしで。 なぜ、この人はそんな目で自分を見るのだろう。 とまどいを抱えたまま、澄乃は朔也との仮初めの婚姻を受け入れる。 夫婦になっても、二人の距離はぎこちない。 それでも朔也は、冷静で隙のない軍人の顔を崩さないまま、一条家の暮らしを少しずつ整えていく。 冷え切った部屋に暖を入れ、灯りを整え、父の薬を手配する。 そして澄乃の刺繍を、けっして単なる「趣味」と見なさない。 ただ、それだけのことなのに。 何故か、凍えていた心が少しずつほぐれ始める。 何気ない暮らしの中で、ゆっくりと恋が育ってゆく。 気丈な没落令嬢と、怜悧で甘い押しかけ婿の、じれ恋・大正浪漫。 ※表紙イラストはAI生成のイメージ画像です。
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