君はSSS賞

 卒業式の翌日、僕は世那くんの家に行った。

 世那くんはいつものように人懐っこい笑顔で迎えてくれた。宅配ピザを取り、二人で他愛もない話をしながら食べた。食べ終わると、世那くんはソファに座り直し、改まってこう言った。

「卒業おめでとう。一日遅れてごめんね」
「ありがとうございます。予定あったなら仕方ないですよ!」
「……ごめんね。予定は嘘。卒業式のあとは家族で過ごしてほしかったから」

 え? そうだったんだ。
 世那くんって、いつもこういう気遣いをしてくれるんだよな。タコパのときも、親御さんに連絡しときなよって言ってくれたり。……優しいな。

「そうだったんだ……。式のあと、家族みんなで外食しました」
「そっか! よかったね。で、高校生じゃなくなったりっちゃん、俺に言いたいことある?」

 急にきた。
 
 告白って、言う側のタイミングに任せてくれるものじゃないの……?
 でも、こういうちょっと強引なところも僕のツボを突いている。また一つ、好きに気づいてしまった。

 
「……僕、世那くんのことが好き。付き合ってください」

 一年間あたため続けてきた言葉を、一言ずつ噛み締めるように伝えた。
 心臓が破裂しそうだった。緊張で指先が震える。

 静寂に耐えかねて世那くんに視線を向けると、とろんとした目で僕を見つめていた。

 次の瞬間、視界がぐらりと揺れた。

 勢いよく腕を引かれ、気づいた時にはソファの背もたれと世那くんの身体の間に閉じ込められていた。

「っ……世那、くん……!?」

 頭上から降ってきたのは、今まで聞いたこともないような、低く色気のある声だった。
 

「……言えたじゃん。えらいね、律」

 見上げた世那くんの瞳の奥にギラギラとした熱が灯っていて、その迫力に思わず息を呑む。

「俺も好きだよ。……てかさ。俺がどんだけこの日を待ってたか、分かってる?」
「え……っ?」

 耳元で囁かれる甘い声に、背筋がゾクゾクと震える。

 世那くんの指先が、僕の顎をくいっと持ち上げた。

「この前も言ったけど、容赦しないから」
「よ、容赦……っ?」
「付き合うのは当たり前。でもその前に、約束して」

 逃げ場のない距離で、世那くんが美しい笑みを浮かべた。

「俺以外の奴に、そんな可愛い顔しないで。……約束できる?」
「……っ、はい……!」

 僕が顔を真っ赤にして頷いた瞬間、世那くんは僕をきつく抱きしめてきた。

「合格。……よし、律は今日から俺のだから」

 
 ……えっと。
 メロいどころの騒ぎじゃないんですけど。

 頼れるお兄さんだと思ってた世那くんの、見たこともない強引な雄の一面に、僕の頭はキャパオーバーだった。

 何? 新形態? 隠しルート解放?

 てか、さっきから『律』って……?

「あ、あの、呼び方……」
「みんな『りっちゃん』って呼ぶって言ってたから。俺は『律』って呼ぶ。いいでしょ? ……返事は?」
「……っ、はい……」

 メロつかされてばっかりなのが悔しくなって、世那くんの首に腕を回し、キスをした。

 唇を離すと、世那くんは一瞬、目を丸くした。

「……へえ。律から来てくれるんだ?」
 そう言って、世那くんは嬉しそうに口角を上げた。

「じゃあ、ご褒美」
「……え?」

 聞き返す間もなく、再び唇を塞がれた。

 さっきの僕のキスとは全然違う。優しく触れるだけじゃなくて、離れたと思ったら、またすぐに唇を重ねられる。

 息をするタイミングさえ分からなくなって、僕は思わず世那くんの服をぎゅっと掴んだ。

 ようやく唇が離れたときには、頭の中が真っ白だった。

「……っ、世那くん……」
「ん? なに?」

「……ご褒美って、一回だけですか……?」
 
 言ってしまった。
 恥ずかしくて顔を伏せようとした瞬間、世那くんが嬉しそうに笑った。

「……っ、律、可愛すぎ……」

 今度は返事をする間もなく、唇が重なった。
 さっきよりも深く、甘く。僕が世那くんの服をぎゅっと掴むと、背中に回された腕に力がこもる。
 
 ようやく離れたとき、世那くんは僕のおでこに自分のおでこをこつんと合わせた。

「……まだ、足りないっしょ?」

 …………無理。
 これから僕、どうなっちゃうの?

 あのとき、コンビニのくじで当たったのはA賞のフィギュアだった。
 でも、僕が手に入れた一番の宝物は、きっとこれだ。

 胸の奥で、今までで一番大きくて甘い音が響く。

 ——どきゅん。
 
 僕の人生最高の『SSS賞』は、もう二度と離してくれそうにありません。
 

 完