いつも塩対応だった義弟の溺愛スイッチを押してしまったようです

「おまえの譫言も聞いたことある。『母さんを殴んないで』、ってバグったみたいに繰り返してた。自分のことじゃなくて、しず香さんの心配ばっかしてた」
「だって、母さんばっか殴られてたから……」
「おまえだって無傷じゃねえだろ」

 俺は押し黙る。
 父親が残した幾つかの傷跡は、まだ俺の体から消えていない。怪我の跡は、もしかしたら一生残るだろう。

「おまえは優しいよ。人を傷つけない奴だ」
「そんなの、どうして佑士に分かんの」

 佑士の手を振りほどく。
 
「俺にはあの父親の血が流れてる。半分はあいつで出来てるんだよ、それはどうしようもない事実なんだ! 俺は……」
「玲は覚えてねえかもしれないけど、俺は覚えてるよ」

 佑士が俺の言葉を遮った。
 興奮が収まらないまま、俺は佑士を睨みつける。
 分からないよ、佑士には。だって俺じゃないもの。同じ経験をしてきてないもの。あの無力さからくる惨めさが、他人に理解できるはずがない。
 全てを拒むように首を振る俺に、佑士は怯まず、眼差しだけで微笑んだ。
 
「おまえはともかく、しず香さんのこと、俺はずっと警戒してた。悪ぃけど、やっぱ前例あるから年上の女が怖かった。隠してたつもりだけど、こっちは子供だからな、しず香さん本人にも、親父にも伝わってたと思う」

 とん、とん、と、なだめるように背中を叩かれる。
 俺は返事をしない。
 ただ佑士の言葉に耳を傾けるだけ。
 今、自分の心の傷をさらけ出しているのは佑士の方なのに、どうして彼はどこまでも優しいんだろう。
 
「家の中にはぎこちない雰囲気が漂ってて、毎日、居心地が悪かった。俺のせいだって理解してるけど、どうにも出来なかった。そんな時期にさ、しれっとした顔でおまえが言ったんだ。『俺の母さん、佑士にとって、本当の母さんの次に良い母さんになると思うよ』って」
「え……?」

 全く記憶にないエピソードだ。
 そんな厚かましい発言かましたのか、俺。

「正直、図々しい奴だなって思った」
「……お恥ずかしい……」

 俺はなんとか反省の言葉を絞り出す。
 佑士は気にしたふうもなく、さらに衝撃の顛末を口にした。