いつも塩対応だった義弟の溺愛スイッチを押してしまったようです

 俺が無下に振り払わないのを確認して、喉の奥で低く笑う。

「俺、おまえに触るのも、触られるのも好きみてえ。——本当はさ、人に触るの嫌いなんだよな」
 
 はい、ダウト。
 俺にキスしたり、電車でもたれかかってきたり、こんなふうに手を繋いだり、俺にキスしたり、キスしたり、めっちゃ触ってくる癖に。
 眉根を寄せた俺の気配を悟ったように、佑士は握った手へ力を込めた。

「保健室で、俺の寝言聞いただろ? クソババアってやつ」

 思いがけない方向から球を投げられて、俺は否定する隙も与えられず、曖昧に頷いた。

「うん、まあ」
「あれ、親父が二回目に結婚した女のこと。専業主婦で、ずっと家にいた。親父とはかなり年が離れてて、俺が十歳の時、そいつは二十代半ばくらいだったっけか。子供が……性的対象って意味で好きだったんだろうな」

 え?
 喉元まで出かかった声を、必死で飲み下す。
 佑士の方を見やると、宙を見つめて何でもない顔をしていた。でも、俺は知っている。平気なように見えたって、中身はそうじゃないこともあるって。
 俺はあの頃、滅茶苦茶だった家庭を一歩出た外では、いつだって馬鹿みたいに笑ってた。能天気に、何の悩みも持っていないかのように。そうじゃなきゃ崩れ落ちそうだったから。もう全部捨てて、逃げ出してしまいそうだったから。
 
「大したことはされてない。夜中に寝室に入られるとか、多少トラウマ的な経験はしたけど、早い時期に親父が気づいて、そいつとはすぐ縁を切った。でも、それから一年ちょっとで新しい相手を連れてきたから、このおっさん、頭イカれてんのかとは思ったな」
「佑士……」
「その人には俺と同い年の子供がいたから、少し安心した。今度は同じ展開はないだろうってな。ただ、俺はずっと一人っ子で、年の近い人間が近くにいるのは初めてだったから、別の意味で緊張した」
「……うん」
「子供の方は心配要らないってすぐに分かった。そいつの気配は、俺にとって全然邪魔にならなかった。むしろ猫といるみたいに心地よかった。一緒にいるだけで絶対α波出てたと思うわ」
「いや、出ねえと思う」

 突っ込みを入れた俺を、首を巡らせ佑士が見上げてくる。やっと視線が交わった。