いつも塩対応だった義弟の溺愛スイッチを押してしまったようです

 さすがに掃除なしでは部屋には入れられないとのことで、俺は大人しくリビングで時間を潰している。
 そうして、ふと我に返った。
 わざわざ佑士の部屋を希望しなくたって、リビングでの鑑賞会にすれば良かったんじゃないかと。
 いつ母さんたちが帰ってくるのか気にしなくていいから。最近仲良くしてるのを変に勘繰られたくないから。もっともらしい言い訳を探してみたけれど、別に二人に見られたところで、「ちょっとお年頃でうまくいってないみたいだったけど、なんやかんやあって丸く収まったのね」くらいの認識で済んだに違いない。
 それを俺は……。

「『佑士の部屋のテレビって大きいよね』、じゃないんだわ……」
 
 こんなあざと発言、日々自分の可愛さに磨きをかけてる女子にしか許されないんだわ。もう、羞恥と後悔しかないんだわ。
 ソファーへ座り、太ももの上に両肘をついて指を組み合わせ、そこへ額を押しつけたポーズで打ちひしがれる。
 佑士が二階から降りてきたのは、まさに俺が深く反省して前のめった瞬間だった。

「佑士さん。やっぱり、リビングにしましょうか」
「なんでいきなり敬語なんだよ。とりあえず人を入れてもいい部屋になったと思う。汚くても文句言うなよ」
「ご迷惑をおかけしまして……それならリビングの方がいいかなと」
「そりゃ、おまえの好きな方でいいけど。なに、俺と二人っきりは怖くなった?」
 
 俺はがばりと顔を上げ、ソファーの傍らにたたずむ佑士を振り仰ぐ。
 
「佑士が怖いとか、一度も思ったことない。子供の頃は当然だし、あんまり喋らなかった時期も、ずっと」

 俺と絡まないようにしてた頃だって、佑士は俺が家に居づらくなるような態度は取らなかった。引け目を覚える俺の気持ちを察して、すぐに態度を改めた。
 佑士は俺と母さんをずっと尊重してくれてた。
 それだけは、出会った頃から変わらない。
 俺が鼻息も荒く返したせいで、虚を突かれたように目を大きくした佑士は、次いで切れ長の瞳を弓なりにして笑った。

「じゃあ、俺の部屋行くか」
「うん!」
 
 ……うん?
 丸め込まれたような気もしつつ、俺は首をかしげながら、お菓子の入った袋を抱きしめて佑士の部屋へと向かう。飲み物の袋を持った佑士が後に続き、通された彼の部屋。俺が知っている時より洗練されていて、かつ、やや殺風景になっていた。
 モノトーンと言えば聞こえはいいが、全体的に色がない。そして物もない。
 壁際に吊られた制服用のストライプ柄ネクタイの緑色が唯一のカラーって、どうなんだ。
 あ、学習机の脇に置かれた指定鞄へ突っ込まれた例のマフラーも、ダークグリーンか。
 きょろきょろと落ち着きなく辺りを見回す俺に、佑士が苦笑いを洩らした。

「どうせ物珍しさで観察しまくるだろうと思ったから、邪魔になりそうなもんはまとめてクローゼットに突っ込んだ」
「えっ、反則じゃん。どうりで綺麗過ぎると思ったんだよ。普段の佑士の部屋が見たかったのにさ」
「おまえだって、俺がそっちの部屋で遊ぶってなったら、絶対取り繕うだろ」
「それはもちろん」

 俺たちって、友達でも実の兄弟でもないし。
 今はそれに加えて、告白された側と、返事待ち側だし、お互い何となくカッコつけちゃうよな。
 勝手に納得した俺は、佑士に促されてベッドの上に胡坐をかいた。
 そんな俺を見下ろして、佑士が口元を抑える。

「……自分のベッドは、視覚的にやべえな」
「なんか言ったか?」
「いや、別になんも」

 ぶつぶつ呟いていた佑士も、拳二つ分くらい空けて俺の左隣に脚を投げ出す形で座った。壁を背もたれにするように背中をつけ、片脚だけ立てる。
 俺は居住まいを正して正座になった。
 
「いきなり行儀良くなったじゃん」
「お呼ばれされた側なんで」

 嘘だ。
 本当は、距離が近くて落ち着かなくなったから。
 佑士、ジャケット脱いだだけで、まだお出かけモードの服装だし、相変わらずいい匂いがするし、顔面はいつも通りくっそ整ってるし、家には二人きりだし。
 意識し始めると、余計にやばい。
 体が不自然に震えそう。
 きっと挙動不審気味だろう俺をよそに、佑士はリラックスした様子でリモコンを操作し、動画配信サービスの赤い画面を表示させた。映画のランキングを、上位から適当に確認していくつもりみたいだ。

「観たい話あるか?」

 尋ねられたものの、吟味する余裕なんて到底なくて、俺は頭を掻いた。

「うーん、俺はあんまり気になるの無いかも……佑士は?」
「俺も。なんか評判良さそうなのネットで探してみるか」

 リモコンを置いてスマホを開いた佑士に、ふと俺は閃いた。
 変なラブストーリーとか、いきなり濡れ場が差し込まれる映画を引き当てて気まずい思いをするくらいなら、この案でいこう。
 
「アニメにしない?」