ラブレターの差出人は、同じクラスの『姫』だった。

 体育祭当日。残念なことに空は青く澄み渡っていた。
 肌寒さから長袖が手放せない時候だというのに、二年一組の面々は半袖半ズボンの体操着姿で、総合優勝を目標に燃えに燃えていた。

「……うう、今日も寒いですね」

 ただひとり、勇助を除いて。


 橿古井高校の体育祭は、学年ではなく組ごとのチーム対抗戦だ。一組から五組までが順番に白、赤、黄、緑、青の鉢巻きを着用するルールになっている。
 そして全ての競技を終えた段階で最も獲得した得点の多いチームが、栄えある総合優勝に選ばれる。
 勇助は去年も一組だったから、二年連続で白の鉢巻きだ……まあ鉢巻きの色など至極どうでもいいが。

 グラウンドで行われている一年生のダンスを眺めていると、突然視界を手で塞がれた。

「すーずちゃん」
「ひゃわ! ……って、瀬形君。どうしました?」

 後ろで「ばあ」とおどけてみせる目隠しの犯人に訊ねると、

「すずちゃん。次の次、騎馬戦だろ?
 ちょーっとばかし"ツラ貸して"もらえない?」

 両手を合わせて『お願い』ポーズをした瀬形が、勇助にウインクした。


 そして、あっという間に騎馬戦——勇助にとって悪夢の出番が回ってきた。

「勇助! 蹴散らしたれよ!
 あと試合終わったらソッコー顔洗え(・・・)!!」

 蹴散らせと言われても、秒で蹴散らされる側だよ……。
 内心泣きそうになりながら、声を張り上げて声援を送る初に笑顔を作って手を振った。

 瀬形の事前指示通り、直前まで目深にフードを被っていたパーカーを持ち場に置いてグラウンドに進み出ると、勇助——いや、"すずちゃん(簡易版)"は騎馬役のクラスメイトが組んだ手に足を掛けた。
 こんな"作戦"が、本当にうまくいくのだろうか……?

「お願い、鉢巻き取らないで下さい……」
「えっ? あ、ハイ……って、アアアーッ!?」

 うまくいった。

 瀬形が考えたのは、鉢巻きを取られそうになったら、化粧で美少女"すずちゃん"に変身した勇助が「取らないでェ」と上目遣いで懇願して相手を怯ませるという、世にもバカバカしい作戦だった。
 勇助はこの後来るであろう苦情に怯えたが、一組の大将を務める桜慈が四組の大将を瞬殺していたため、意外にも苦情は来なかった。ちなみに瞬殺の理由は、大将だった四組の『姫』が、桜慈と目が合った瞬間に"キュン死"して即刻鉢巻きを取られたかららしい。

 こうして順調に? 勝ち上がった一組は、決勝で五組と戦うことになった。

 ここでも勇助は鉢巻きを取られそうになり、ダメ元で例の泣き落としを掛けると、

「きゅうん」
「ファッ、ファッションセンターさん!?」

 どうやら相手は島村だったらしく、勇助(すずちゃん)を見るなり失神し、その拍子に鉢巻きを落として敢えなく失格となった。

「大丈夫ですか」と声を掛ける勇助に構う事なく、勇助を乗せた騎馬は次の戦地へと向かっていく。すると、今度は見知った小悪魔フェイスが、正面衝突を仕掛けてきた。

「ボクにその手は効かないよ。ユッケ君」

 あざとちゃんだ。
 非力同士の戦いだったが、勇助が不意にバランスを崩したことでその均衡が崩れた。
 あざとちゃんの手が勇助の鉢巻きに伸び、思わず悲鳴を上げた瞬間、

「……おーじ、どうして」

 桜慈があざとちゃんの鉢巻きを奪い、そして、

「あれー……。まさかの大金星?」

 哲哉が、大将である桜慈の鉢巻きを掠め取っていた。


 試合終了。騎馬戦は五組が優勝した。