「ええと……"すずちゃん"さん、ですか?」
ぽかんとした島村の表情から、勇助はすずちゃん=自分だと結びついていないのだと思い、説明を付け加えた。
「はい、僕が"すずちゃん"です。
本名の『鈴木勇助』から、一部のクラスメイトにそう呼ばれています」
「そうだったんだね……」
曖昧に言葉を切った島村が、気まずそうに俯いた。
勇助は瞬時に、女装コンテストの時の自分と普段の自分との乖離の酷さで島村をがっかりさせてしまったのだと悟り、申し訳なさで胸が痛くなった。
「あの、ファッションセンターさん……僕は」
どうしよう。申し訳なさとはまた違う感情で苦しくて、うまく言葉が出てこない。
でも、とにかく謝らなければと頭を下げようとした瞬間——背後から肩を抱き寄せられていた。
「……島村だっけ? お前、結局勇助に何の用?」
視線を上げると、勇助の左肩に手を掛けた初が、島村を睨みつけていた。
「ええと……君は確か」
「こいつの『恋人』だけど?」
勇助が驚きで初を二度見すると、初は相も変わらず島村に鋭い視線を送っている。
「……本当に、彼が"すずちゃん"さんの……?」
「あっ……はい。……そう、です……」
しどろもどろに答えた勇助に、
「そっか。やっぱり、僕では……。末永く、お幸せに」
島村はぎこちない笑顔を浮かべて、足早にその場を去っていった。
「あいつ、何がしたかったんだ?」
島村が教室に戻るのを見届けた初が、勇助の肩から手を離して大きく息を吐いた。
「わかりませんが、僕が傷つけてしまったのは間違いないと思います」
「お前は何も悪いことしてないだろ。向こうが勝手に自滅してっただけじゃん」
教室戻ろうぜ、と軽い調子で背を向けた初に、勇助は思い切って声を掛けた。
「あの、はじめさん。庇って下さって、ありがとうございました。
……もう恋人でもなんでもないのに」
元々、初が提示した『恋人』としての期間は、インターハイが終わるまでだった。七月末のあの日を境に、すでにその期間は終わっている。
それなのに、初は勇助と行動を共にし、和にも構い続けてくれている。今年の夏、誰よりも多くの時間を過ごした仮初の恋人に、今日も『恋人』としての役目を負わせ、迷惑を掛けてしまった。
恋人はおろか、友人としての関係も遮断されることになったとしても、これ以上、初を『鈴木勇助の恋人』という枠組に括り付けておくことはできなかった。
どんな言葉が返ってきても、受け止める。覚悟を決めて息を呑むと、
「その事だけど、さ」
勇助に向き直った初が腕を組み、まっすぐに視線をぶつけてきた。
「知らなかったか? お前の女装、一部の界隈でそこそこ話題になってたらしくて。
今後も今日みたいに、またどこぞの誰かが言い寄ってきたら、その……色々と面倒だろ?
だから、どっちかが『もういい』ってなるまで、恋人関係っぽいのは継続……ってことで、いいんじゃね?」
ぶっきらぼうに言った初が、そっぽを向いて大袈裟に頭を掻きはじめた。
そういえば。優勝したのは二組だったが、各クラスの『姫』が出揃う中、自分は奇跡的に最下位を免れたんだっけ、と勇助は女装コンテストの投票結果を思い出した。
——はじめさん。そんなに強く掻いたら、頭皮が温泉まんじゅうみたいになってしまいますよ。
そうなる前に、早く返事をしなければ。
真っ赤に染まった耳を見つめながら、勇助は笑顔で答えた。
「……はい!
不束者ですが、今後ともよろしくお願いします」
ぽかんとした島村の表情から、勇助はすずちゃん=自分だと結びついていないのだと思い、説明を付け加えた。
「はい、僕が"すずちゃん"です。
本名の『鈴木勇助』から、一部のクラスメイトにそう呼ばれています」
「そうだったんだね……」
曖昧に言葉を切った島村が、気まずそうに俯いた。
勇助は瞬時に、女装コンテストの時の自分と普段の自分との乖離の酷さで島村をがっかりさせてしまったのだと悟り、申し訳なさで胸が痛くなった。
「あの、ファッションセンターさん……僕は」
どうしよう。申し訳なさとはまた違う感情で苦しくて、うまく言葉が出てこない。
でも、とにかく謝らなければと頭を下げようとした瞬間——背後から肩を抱き寄せられていた。
「……島村だっけ? お前、結局勇助に何の用?」
視線を上げると、勇助の左肩に手を掛けた初が、島村を睨みつけていた。
「ええと……君は確か」
「こいつの『恋人』だけど?」
勇助が驚きで初を二度見すると、初は相も変わらず島村に鋭い視線を送っている。
「……本当に、彼が"すずちゃん"さんの……?」
「あっ……はい。……そう、です……」
しどろもどろに答えた勇助に、
「そっか。やっぱり、僕では……。末永く、お幸せに」
島村はぎこちない笑顔を浮かべて、足早にその場を去っていった。
「あいつ、何がしたかったんだ?」
島村が教室に戻るのを見届けた初が、勇助の肩から手を離して大きく息を吐いた。
「わかりませんが、僕が傷つけてしまったのは間違いないと思います」
「お前は何も悪いことしてないだろ。向こうが勝手に自滅してっただけじゃん」
教室戻ろうぜ、と軽い調子で背を向けた初に、勇助は思い切って声を掛けた。
「あの、はじめさん。庇って下さって、ありがとうございました。
……もう恋人でもなんでもないのに」
元々、初が提示した『恋人』としての期間は、インターハイが終わるまでだった。七月末のあの日を境に、すでにその期間は終わっている。
それなのに、初は勇助と行動を共にし、和にも構い続けてくれている。今年の夏、誰よりも多くの時間を過ごした仮初の恋人に、今日も『恋人』としての役目を負わせ、迷惑を掛けてしまった。
恋人はおろか、友人としての関係も遮断されることになったとしても、これ以上、初を『鈴木勇助の恋人』という枠組に括り付けておくことはできなかった。
どんな言葉が返ってきても、受け止める。覚悟を決めて息を呑むと、
「その事だけど、さ」
勇助に向き直った初が腕を組み、まっすぐに視線をぶつけてきた。
「知らなかったか? お前の女装、一部の界隈でそこそこ話題になってたらしくて。
今後も今日みたいに、またどこぞの誰かが言い寄ってきたら、その……色々と面倒だろ?
だから、どっちかが『もういい』ってなるまで、恋人関係っぽいのは継続……ってことで、いいんじゃね?」
ぶっきらぼうに言った初が、そっぽを向いて大袈裟に頭を掻きはじめた。
そういえば。優勝したのは二組だったが、各クラスの『姫』が出揃う中、自分は奇跡的に最下位を免れたんだっけ、と勇助は女装コンテストの投票結果を思い出した。
——はじめさん。そんなに強く掻いたら、頭皮が温泉まんじゅうみたいになってしまいますよ。
そうなる前に、早く返事をしなければ。
真っ赤に染まった耳を見つめながら、勇助は笑顔で答えた。
「……はい!
不束者ですが、今後ともよろしくお願いします」

