夏休みに入り、七月末。初はインハイの本戦に出場した。
なんとか準決勝までは行きたいと思っていたが、結果は初戦敗退だった。
その日の夜、勇助から一通のショートメールが届くと、いつもとは違うざわめきが初の胸に走った。
本戦出場後、初は勇助から貰ったお守りを会場で一度紛失した。小一時間ほど探し回り、洗面所の流し台の下で見つけることができたが、お守り自身が必然的に初の元を去っていったような錯覚を覚えて、不安と焦燥でいっぱいになった。
インハイが終わった今、恋人関係もここで終わりを告げられてもおかしくはない。
震える指でアイコンをタップすると、
『園長先生経由で、めぐみ先生と撮った写真を見せて頂きました。
全国大会、お疲れさまです。お祖父さんを連れて行くことができてよかったですね』
恋人関係への言及が一切ないことを確認して、ほっと胸を撫で下ろした。
東京に戻ったら、母と、祖父の遺影と、お守りと一緒に撮った写真を勇助に見せよう。
そして、この不確かな関係への結論付けは、極限まで先延ばしにしてしまおう。
スマートフォンを充電器に繋げた初は、明かりを消して眠りについた。
インハイが終わると、週一、二ペースで勇助からショートメールが入るようになった。
初はその都度、期待と怯えで心臓が跳ね、
「おい、はじめ! きょうはおまえとあそんでやる」
和経由での呼び出しだと判ると、その都度、落胆と安堵で息を吐いた。
母とはあの日以来、定期的に連絡を取り合うようになった。
お盆には一緒に祖父の墓参りに行き、その帰りに母の家でミックスベジタブル入りのハンバーグを食べた。
料理下手というのは本当のようで、今度は味が薄すぎて「随分と健康志向だな」と皮肉ったら、母は苦笑いを浮かべていた。
「はじめさん。お盆シーズンなので、お祖父さんへのお供え菓子を買ってきました」
墓参りの翌日、勇助が地元銘菓の温泉まんじゅう片手に初の家に来た。一緒に勉強をするためだ。
夏休みの課題を一緒にこなし、白チャートが放置されていたのを怒られて十数ページ解き終わったところで、一旦休憩を挟むことにした。
勇助はおもむろにリビングから離れると、祖父の写真の前に温泉まんじゅうを供えて手を合わせた。
「……じーちゃん、こう見えて腕利きの理容師だったんだぜ。つるっぱげなのに、ウケるだろ」
初が声を掛けると、勇助は「その腕が、はじめさんに引き継がれているのですね」と言って目を細めた。そして、
「この温泉まんじゅう、どことなくお祖父さんに似ているので、もしかしたら憑代としてはじめさんの元に来て下さるかもしれませんね」
温泉まんじゅうと祖父の写真を交互に眺め見ながら、息をするように毒を吐いた。
「……お前、いい事言った風にしてさらっとじーちゃんの頭皮ディスってね?」
「そんな、滅相もない! お祖父さん、当たり前ですがはじめさんにもそっくりで、目元以外はよく似ていると思います。
はじめさんも数十年後、こんな感じになるんでしょうね」
「やめろ、あんなハゲと一緒にすんな」
「はじめさんこそ、お祖父さんを貶すのはよくないです。それにお祖父さんのほうが目元がキリッとしているぶん、男前だったのではないでしょうか」
「なんだとテメェコラブチ犯すぞ」
不機嫌を露わに凄むと、勇助は「僕が倒れない程度に手加減してくださいね」と、困ったような笑顔とともに、頓珍漢で悩ましい言葉を返してきた。
「またそんなこと言って…………勇助、覚悟しろよ」
——半分、本気なんだからな。
なんとか準決勝までは行きたいと思っていたが、結果は初戦敗退だった。
その日の夜、勇助から一通のショートメールが届くと、いつもとは違うざわめきが初の胸に走った。
本戦出場後、初は勇助から貰ったお守りを会場で一度紛失した。小一時間ほど探し回り、洗面所の流し台の下で見つけることができたが、お守り自身が必然的に初の元を去っていったような錯覚を覚えて、不安と焦燥でいっぱいになった。
インハイが終わった今、恋人関係もここで終わりを告げられてもおかしくはない。
震える指でアイコンをタップすると、
『園長先生経由で、めぐみ先生と撮った写真を見せて頂きました。
全国大会、お疲れさまです。お祖父さんを連れて行くことができてよかったですね』
恋人関係への言及が一切ないことを確認して、ほっと胸を撫で下ろした。
東京に戻ったら、母と、祖父の遺影と、お守りと一緒に撮った写真を勇助に見せよう。
そして、この不確かな関係への結論付けは、極限まで先延ばしにしてしまおう。
スマートフォンを充電器に繋げた初は、明かりを消して眠りについた。
インハイが終わると、週一、二ペースで勇助からショートメールが入るようになった。
初はその都度、期待と怯えで心臓が跳ね、
「おい、はじめ! きょうはおまえとあそんでやる」
和経由での呼び出しだと判ると、その都度、落胆と安堵で息を吐いた。
母とはあの日以来、定期的に連絡を取り合うようになった。
お盆には一緒に祖父の墓参りに行き、その帰りに母の家でミックスベジタブル入りのハンバーグを食べた。
料理下手というのは本当のようで、今度は味が薄すぎて「随分と健康志向だな」と皮肉ったら、母は苦笑いを浮かべていた。
「はじめさん。お盆シーズンなので、お祖父さんへのお供え菓子を買ってきました」
墓参りの翌日、勇助が地元銘菓の温泉まんじゅう片手に初の家に来た。一緒に勉強をするためだ。
夏休みの課題を一緒にこなし、白チャートが放置されていたのを怒られて十数ページ解き終わったところで、一旦休憩を挟むことにした。
勇助はおもむろにリビングから離れると、祖父の写真の前に温泉まんじゅうを供えて手を合わせた。
「……じーちゃん、こう見えて腕利きの理容師だったんだぜ。つるっぱげなのに、ウケるだろ」
初が声を掛けると、勇助は「その腕が、はじめさんに引き継がれているのですね」と言って目を細めた。そして、
「この温泉まんじゅう、どことなくお祖父さんに似ているので、もしかしたら憑代としてはじめさんの元に来て下さるかもしれませんね」
温泉まんじゅうと祖父の写真を交互に眺め見ながら、息をするように毒を吐いた。
「……お前、いい事言った風にしてさらっとじーちゃんの頭皮ディスってね?」
「そんな、滅相もない! お祖父さん、当たり前ですがはじめさんにもそっくりで、目元以外はよく似ていると思います。
はじめさんも数十年後、こんな感じになるんでしょうね」
「やめろ、あんなハゲと一緒にすんな」
「はじめさんこそ、お祖父さんを貶すのはよくないです。それにお祖父さんのほうが目元がキリッとしているぶん、男前だったのではないでしょうか」
「なんだとテメェコラブチ犯すぞ」
不機嫌を露わに凄むと、勇助は「僕が倒れない程度に手加減してくださいね」と、困ったような笑顔とともに、頓珍漢で悩ましい言葉を返してきた。
「またそんなこと言って…………勇助、覚悟しろよ」
——半分、本気なんだからな。

