ラブレターの差出人は、同じクラスの『姫』だった。

 その後も公園で和に言われるがままダンゴムシを集めさせられたり、走り方を教えたりしているうちに、あっという間に夕方になった。

「はじめさん、先程はすみません……僕のせいで水浸しになってしまって」
「もういいって、わざとじゃねーんだから。
 元はといえばこいつの仕業だし」

 初は濡れたパーカーを着たまま、勇助の背中ですやすやと眠る和を肘で小突いた。
 公園の水飲み場でふざける和を勇助が引き剥がそうとした拍子に、和が指で押さえていた飲み口の水が、初の顔に勢いよく命中してしまったのだ。

「あの時はびっくりしました……いきなり大声で笑い出したはじめさんの口が、普段の何倍も大きかったので」
「いや驚いたのそこかよ」

 初はまた大きな口で笑いそうになるのを堪えて、ふっと声を漏らした。

「今日一時間くらい教えてみたけどさ。和、あいつ短距離走のセンスあるよ」

 口への関心を逸らそうと和の話をすると、勇助は「はじめさんが言うなら間違いないですね」と、穏やかな顔つきで和を見た。

「昔から、あっちこっち走り回ってる子でしたからね」
「あー。和、走るの好きだもんな」
「はじめさんも、走るのが好きで陸上を?」
「好きっていうか……なんて言えばいいんだろうな。
 小学校ん時の通学路が、ひたすら川沿いをまっすぐの道で。追い風が吹いてたから何となく走ったら、頭ン中の雑音が、全部なくなってさ。
 地面を蹴って、風とひとつになって前に進む感覚が、すっげー爽快で。
 それ以来、一人の時間はひたすら走りまくってて。そっから陸上の道に流れていった感じかな。
 走るのは嫌いじゃないけど、好きなのか、って聞かれると……」

 初は足を止め、和を背負う勇助を見た。

「なあ、勇助。
『好き』って、どういうことなんだろうな」

 夕陽を含んだ光が勇助の輪郭をなぞり、茜色に輝いている。

「ええ……? なんだか倫理の授業みたいな質問ですね」

 慎重に言葉を選んでいるのか、勇助は瞬きを二つしてから、ゆっくりと語り始めた。

「あくまで、恋愛経験の乏しい……というか全くない、僕の見解に過ぎないことを念頭に置いて頂きたいのですが。
『好き』の第一歩は、その対象について、知りたいと思うこと……ではないでしょうか。
 たとえば、ええと……そうだ。僕は、はじめさんのこと、もっと知りたいと思っています。
 これもきっと、『好き』ってことのひとつなんでしょうね」

 初を見た勇助が、優しく微笑んだ。

 勇助が伝えようとしたのは、間違いなく友人としての好意だ。
 哲哉や桜慈に対してと同じ——いや、それ以下であってもおかしくない。頭ではわかっているのに、心臓はうるさく音を立て、顔にはさかんに血が巡る。笑顔とともに向けられた、たった二文字の言葉が(もたら)す多幸感と息苦しさに、そのまま呑まれてしまいそうになる。


 ——ああ、そうか。

「……それが、『好き』ってことなんだな」