そして、彼女が『そこ』へたどり着いたのも
あるいはその野性の本能が導いた結果だったのかもしれない
永遠に続くかと思われた森の闇が、不意に途切れた
いきなりステラの前に開けたその空間は
彼女の人生を根本から大きく変えることとなる
新しい世界への入り口だった
その入り口の先、明るい光の中に、一人の「人間」の姿があった
ステラは、鬱蒼とした木々の間からふらふらと這い出ると
その姿へすがるようにふらりと手を伸ばした
限界だった
プツリと糸が切れた操り人形のように
ステラの身体は地面へと前のめりに倒れ込んだ。
「おい! 大丈夫か!」
驚いたような男の声が響き、誰かが慌てて駆け寄って
泥だらけのステラを抱き起こそうと手をかけてきた
その大きく温かい手が、ステラの肌に触れた瞬間だった
(あ……)
その温もりが、冷え切ったステラの身体に
すべてを許されたような不思議な開放感と安堵をもたらし
理性を完全に吹き飛ばした
「あ、あああ……っ! た、助かった……助かったぁぁっ!」
ステラは幼子のような嗚咽を漏らすなり
抱き起こそうとしてくれた男の首に両腕をきつく回した
全体重を預けるようにして
力いっぱいすがりつき、なりふり構わず抱きついた
それは、心地よい安心感をステラに感じさせた
に身を任せ、男の胸にすがりついていた、まさにその時である。
――ガシッ
背後から、別の者らしき手が、ステラの体を掴んだ
そこには温もりなど一切ない
明確な敵意と、凄まじいまでの圧力が込められていた
「……ほえっ?」
ステラの口から、間の抜けた声が漏れた
次の瞬間、ステラの視界の中で、地面と青空が鮮やかに逆転した
凄まじい遠心力と共に背中を地面にしたたかに叩きつけられ
ステラの意識は、青空を見たのを最後に暗闇へと沈んでいった
***
気がつくと、ステラは清潔で柔らかな寝具の上に寝かされていた
痛む身体を起こそうとすると
目の前で、見知らぬ女性が畳に額をこすりつけていた
「ま、誠に、誠に申し訳ございませんっ!!」
まだ意識がはっきりしていないステラは
その女性が、自分を投げ飛ばした本人であることも分からず
女性の土下座を、ただぼんやりと眺めていた
だが、その視界を遮るように小さな影が駆け抜け
ステラの傷だらけの手をぎゅっと握りしめた
「ステラさん!」
その声に、ステラの意識が急激に浮上する
視界が焦点を結び、目の前で涙を流す少女の顔をはっきりと捉えた
「……ミア!!」
ステラは叫びながら、死んだと思っていた少女を力いっぱい抱きしめた
ぽろぽろと大粒の涙がとめどなく流れ落ちる
「生きていた! 生きていたのね……っ!」
再会の喜びに、感極まった時
ステラの身体が、大きく反応した
瞳が、人間の丸い瞳孔から、肉食獣の獰猛な縦長の瞳孔へと変異する
きな子を抱きしめていた指先からは
太く長い獣の爪がギリッと伸びていった
(しまった……っ!!)
自分の変化に気がついたステラは、ハッとして息を呑んだ
全身から血の気が引く
またやってしまった
一番見られたくない忌まわしい姿を
少女と、自分を助けてくれたこの人間たちの前に晒してしまった
ステラは慌てて身体を離し
寝具から飛び退き後ずさると、震える目で三人の顔を見回した
その獣の瞳に宿っていたのは
獲物を狙う鋭さなどではない
逆に自分が獲物であるという
どうしようもない絶望と恐れだった。
ステラは両手で顔を覆おうと身をすくませた。
だが、
「え……?」
きな子は、ステラの獣の姿に何の反応も示さなかった
それどころか、怯えるステラの身体を再びギュッと抱き返し
わあわあと涙を流し続けている
恐る恐る視線を上げた先。
自分を抱き起こしてくれた男は
ステラの縦長の瞳と鋭い爪を見ても
顔色一つ変えず、努めて平静な態度を保っていた
そして、自分を投げ飛ばしたあの女性に至っては
なぜか目をキラキラと輝かせ
ステラの爪や目を興味津々にのぞき込もうと
じりじりと近づいてきているではないか
誰一人として、ステラを「化け物」と罵倒しない。
誰一人として、嫌悪の表情を浮かべない。
あの日、孤児院で、エルフの村で、向けられたあのおぞましいものを見る目は
この部屋のどこにも存在しなかったのだ。
三者三様の予想外の反応。
覚悟していた罵倒も暴力も降ってこない現実に
ステラは信じられない思いで戸惑い
ただぽろぽろと涙を流し続けた。
あるいはその野性の本能が導いた結果だったのかもしれない
永遠に続くかと思われた森の闇が、不意に途切れた
いきなりステラの前に開けたその空間は
彼女の人生を根本から大きく変えることとなる
新しい世界への入り口だった
その入り口の先、明るい光の中に、一人の「人間」の姿があった
ステラは、鬱蒼とした木々の間からふらふらと這い出ると
その姿へすがるようにふらりと手を伸ばした
限界だった
プツリと糸が切れた操り人形のように
ステラの身体は地面へと前のめりに倒れ込んだ。
「おい! 大丈夫か!」
驚いたような男の声が響き、誰かが慌てて駆け寄って
泥だらけのステラを抱き起こそうと手をかけてきた
その大きく温かい手が、ステラの肌に触れた瞬間だった
(あ……)
その温もりが、冷え切ったステラの身体に
すべてを許されたような不思議な開放感と安堵をもたらし
理性を完全に吹き飛ばした
「あ、あああ……っ! た、助かった……助かったぁぁっ!」
ステラは幼子のような嗚咽を漏らすなり
抱き起こそうとしてくれた男の首に両腕をきつく回した
全体重を預けるようにして
力いっぱいすがりつき、なりふり構わず抱きついた
それは、心地よい安心感をステラに感じさせた
に身を任せ、男の胸にすがりついていた、まさにその時である。
――ガシッ
背後から、別の者らしき手が、ステラの体を掴んだ
そこには温もりなど一切ない
明確な敵意と、凄まじいまでの圧力が込められていた
「……ほえっ?」
ステラの口から、間の抜けた声が漏れた
次の瞬間、ステラの視界の中で、地面と青空が鮮やかに逆転した
凄まじい遠心力と共に背中を地面にしたたかに叩きつけられ
ステラの意識は、青空を見たのを最後に暗闇へと沈んでいった
***
気がつくと、ステラは清潔で柔らかな寝具の上に寝かされていた
痛む身体を起こそうとすると
目の前で、見知らぬ女性が畳に額をこすりつけていた
「ま、誠に、誠に申し訳ございませんっ!!」
まだ意識がはっきりしていないステラは
その女性が、自分を投げ飛ばした本人であることも分からず
女性の土下座を、ただぼんやりと眺めていた
だが、その視界を遮るように小さな影が駆け抜け
ステラの傷だらけの手をぎゅっと握りしめた
「ステラさん!」
その声に、ステラの意識が急激に浮上する
視界が焦点を結び、目の前で涙を流す少女の顔をはっきりと捉えた
「……ミア!!」
ステラは叫びながら、死んだと思っていた少女を力いっぱい抱きしめた
ぽろぽろと大粒の涙がとめどなく流れ落ちる
「生きていた! 生きていたのね……っ!」
再会の喜びに、感極まった時
ステラの身体が、大きく反応した
瞳が、人間の丸い瞳孔から、肉食獣の獰猛な縦長の瞳孔へと変異する
きな子を抱きしめていた指先からは
太く長い獣の爪がギリッと伸びていった
(しまった……っ!!)
自分の変化に気がついたステラは、ハッとして息を呑んだ
全身から血の気が引く
またやってしまった
一番見られたくない忌まわしい姿を
少女と、自分を助けてくれたこの人間たちの前に晒してしまった
ステラは慌てて身体を離し
寝具から飛び退き後ずさると、震える目で三人の顔を見回した
その獣の瞳に宿っていたのは
獲物を狙う鋭さなどではない
逆に自分が獲物であるという
どうしようもない絶望と恐れだった。
ステラは両手で顔を覆おうと身をすくませた。
だが、
「え……?」
きな子は、ステラの獣の姿に何の反応も示さなかった
それどころか、怯えるステラの身体を再びギュッと抱き返し
わあわあと涙を流し続けている
恐る恐る視線を上げた先。
自分を抱き起こしてくれた男は
ステラの縦長の瞳と鋭い爪を見ても
顔色一つ変えず、努めて平静な態度を保っていた
そして、自分を投げ飛ばしたあの女性に至っては
なぜか目をキラキラと輝かせ
ステラの爪や目を興味津々にのぞき込もうと
じりじりと近づいてきているではないか
誰一人として、ステラを「化け物」と罵倒しない。
誰一人として、嫌悪の表情を浮かべない。
あの日、孤児院で、エルフの村で、向けられたあのおぞましいものを見る目は
この部屋のどこにも存在しなかったのだ。
三者三様の予想外の反応。
覚悟していた罵倒も暴力も降ってこない現実に
ステラは信じられない思いで戸惑い
ただぽろぽろと涙を流し続けた。
