不機嫌な幼なじみと鈍感な僕

遼人は真っ先に落下防止策の傍らにあった青いベンチに座ると隣に座るように右手でベンチを叩いて促してくる。

旭は黙って遼人の隣に腰を下ろすと、手に持っていた弁当袋を差し出した。

グレーの袋が旭でネイビーの袋が遼人の弁当だ。

「はい、遼の分」
「さんきゅー」

 遼人は弁当を受け取り、目を細めて笑うと早速袋の紐を解き始めていた。

「遼、今度会ったらちゃんと文子さんに御礼言いなよ?ただでさえ毎日作ってもらって申し訳ないのに」
「はいはい、わーってる」

 箸を振りながら、半ば鬱陶しそうに返事をしている。
旭の育ての親である文子さんは、旭だけではなく遼人の分のお弁当も作ってくれる程優しい人だ。

「旭は遠慮しすぎなんだよ。お前の親なんだから、弁当作ってくれることに申し訳ないとか思う必要ねーんだって」
「分かってるよ……」

 遼人の言う通り。血の繋がりはなくても親同然なのだから多少の甘えは許してくれるかもしれない。

幼少期は何とも思わなかったことも、自分が年を重ね、次第に周りが見えてくるようになって、有難さを感じる反面で遠慮もあった。

「でも、遼はもうちょっと遠慮したほうがいい」
「はぁ⁉」

 言われっぱなしじゃ納得のいかなかった旭は、遼人に言い返すと彼は眉間に皺を寄せる。

「たまには施設で作ってくれる弁当も食べてみたら?」

 わざわざ旭が持ってくる弁当を当てにしなくても施設の寮母さんが作ってくれるはずだ。

「嫌だ。だって不味いんだもん」

「不味いって、星杏ちゃんも同じの食べてるんでしょ?」

「あいつは馬鹿舌だからいーの」

「ごちそうさま」と両手を合わせる遼人を見やるとお弁当の中身は一瞬にして無くなっていた。

旭が驚いている間にも遼人から空になった弁当を彼に押し付けられる。

いつもの事だ……。

旭は自分の膝に広げていた弁当をベンチの座面に置いて、遼人の弁当箱を袋に仕舞った。

仕舞い終えると再び自分のお弁当を膝に乗せて食べ進める。すると遼人は此方に頭を向けて、ベンチの上で仰向けに寝転がり始めた。

「あさひー、眠い」
「眠いって……。遅刻してきたくせに」
「遅刻じゃねーから。ギリ間に合ったし」
「運が良かっただけでしょ」
「まぁ……担任がいつも通り来てたら終わってた」

 弁当をつつきながら、遼人とする他愛のない会話にしみじみとしていた。

旭はこの時間が何よりも好きだ。

誰の目にも触れず、遼人が俺だけに笑いかけて話し掛けてくれる時間が好きだ。

「旭、今日部活?」
「ううん、今日は休み」

 暫くの沈黙の後、遼人に問われて頷く。
目線をお弁当から、遼人へ向けると上目遣いで此方を見てきていたことに何だか恥ずかしくなり、目を逸らした。