不機嫌な幼なじみと鈍感な僕

八月の下旬を迎え、長期の休みに入っていた学校が始まる日まで片手で数えられる日数になった頃。旭は冷房の効いた図書館へと来ていた。

「ほら遼人、ペン動かしな」
「怠い、眠い」

 上半身をテーブルに伏せて両手を伸ばし、だらけている斜め向かいに座る遼人と、旭の隣に座り深い溜息を吐く星杏ちゃんを横目に
本を読んでいた。
 
---------------------------


花火大会の後、気まずさから二人とは連絡をとっていなかった。星杏ちゃんはともかく遼人にはあんなことをしたのだから合わせる顔がない。

 連絡が来たのは昨日の事で星杏ちゃんからだった。
お昼に文子さんと夕食の買い出しに出て帰ってきた直後に携帯電話が鳴った。

「もしもし……」
『旭、花火大会ぶりだね。元気してた?』
「ああ、うん。あの時はごめんね。急に帰っちゃって」

 遼人のことが気になって星杏ちゃんをほったらかしにしてしまったことをお詫びすると、彼女は明るい声音で『ううん、いいの』と返してきた。多少の申し訳なさはあるが、その彼女の明るさが旭の心を軽くさせる。

『気にしないで。それより旭、明日空いてる?』
「空いてるけど……」
『良かったー。遼人がね、まだな夏休みの宿題終わってないらしくて……。本人は断固してやらないって言ってるんだけど、内心に関わるし、旭にも手伝ってほしいなーって』

 遼人と聞いて旭は唾を飲み込んだ。あの日のキスのことは鮮明に覚えている。それどころか、毎日遼人の夢を見るようになってしまった。遼人と向かい合って立っては、徐々に近づき、唇に触れるところで目が覚める夢。

 あの日彼とは危惧癪したまま別れたし、そのこともあってか遼人と会うのは避けたいところだった。

 でも下手に断って露骨に避けているとも思われたくない……。

「いいよ、僕で良ければ……」

 あまり乗り気ではなかったが、星杏ちゃんの誘いにのり、翌日の午後に市民図書館で待ち合わせをして今に至る。

 二人と落ち合ってから星杏ちゃんとは話をしているが、遼人とは全く言葉を交わすどころか、自ら座る座席を遠ざけてしまっていた。