おっさんバックパッカーは異世界へ行っても自由気ままに旅をする。

「こっちの料理はアヒージョ、こっちの料理はサムギョプサルという俺の故郷の料理だ」

「どちらもとても良い香りですね!」

 続いてはメイン料理だ。

 アヒージョとはスペイン語で小さなニンニクや刻んだニンニクという意味で、オリーブオイルとにんにくで食材を煮込んだ料理となる。

 作り方は香りの良い油にニンニクと唐辛子やコショウなどの香辛料を加え、食材を入れて煮込むだけのシンプルな料理である。

「すごいです! こっちの赤いのはプリプリしていて、香辛料の香りと合わさってとってもおいしいですし、この白いキノコはすごく肉厚でいつもお城で食べているキノコよりもおいしいです!」

「そうだろう。赤いのはルビーシュリンプという大きなエビをぶつ切りにしたものだ。こいつは50センチメートルもあって大きいのに、その身は繊細な味なんだよ。白いキノコはさっき話したルミナダケだぞ」

 ルビーシュリンプは大きなエビで、その中身まで美しい赤色だ。他の野菜と同様、海の街で獲れたての状態で保存してあるので、身がプリプリとして旨みが凝縮した最高の味だ。エビやカニなどの甲殻類も死んだらすぐに鮮度が落ちるから、処理をした状態ですぐにバックパックに入れておいた。

 ルミナダケはウェルダ村で手に入れたものだ。この大きな白いキノコはアヒージョにもよく合うな。

 アヒージョはシンプルな料理であるがゆえに、食材の味がより際立つのである。

「あとはこのバケットに食材の旨みの染みだしたオイルをたっぷり付けて食べてもおいしいぞ」

「うわあ~本当ですね!」

 アヒージョといえばこのオイルがたまらない。パスタに絡めてもおいしいんだよなあ。

 そしてアヒージョに使うオイルはオリーブオイルが一般的だが、ごま油を使ってもうまいんだよ。あのごまの香りが個人的には好きである。

「こっちはサムギョプサルだ。肉をこの葉っぱでくるんで、いろんな薬味を付けて食べるんだよ」

 サムギョプサルとは韓国風の焼き肉だ。韓国語で三層肉という意味で、脂身・赤身・皮の3層がある豚バラのことを指している。まあ今回は豚ではないがな。

 味付けしていない豚バラの三枚肉を厚めに切って、鉄板の上で焼き目がつくまでじっくりと焼く。肉が焼き上がったらハサミで切って、切った肉をサンチュやエゴマの葉などで塩、ごま油、コチュジャン、青唐辛子と一緒に包んで食べる料理だ。

「食べる直前に自分で作るのですね」

「ああ。自分で好きな分量を取って、好きな味にして食べていいんだぞ」

 カトレアは王族だから普段こういった料理なんかを食べることはないからこそ、この場ではこういった料理も食べてもらうようにしている。

 ここでは形式ばった食事のマナーなどは必要ない。……というか、俺こそそんなマナーは知らない。

「んんっ! このお肉はとっても柔らかく、脂がのっていておいしいです! シャキッとした食感にとろけるようなお肉と薬味の味が一体となって」

「こいつはヴァインボアのバラ肉だ。こういった食べ方もなかなかうまいだろ」

 ヴァインボアは大きなイノシシ型の魔物だ。元の世界のように品種改良された肉ではないが、それでもめちゃくちゃうまい。もしかするとこの異世界にある魔力というものが関係しているのかもしれない。

 本当はせっかく購入したヴァインボアの睾丸も食べさせてあげたかったのだが、ミレディさんに却下されてしまった。見た目はともかく、味はおいしいんだけれどなあ……。

「こっちのタレを付けてもうまいぞ。俺が作った自家製のタレだな」

 この異世界の醤油をベースにすりおろした果物や調味料なんかを混ぜ合わせた焼き肉のタレもどきだな。時間だけは山ほどあるので、いろんな比率で試してみたのだが、それでも元の世界の市販の味には及ばないんだよ。やはりあれは食品メーカーの長年の企業努力の成果だから、そう簡単に超えることはできないみたいだ。

「本当においしいですね! ミレディ、お城でもぜひこの味を再現してほしいです」

「承知しました。ガクト様、こちらのタレのレシピを教えていただけないでしょうか?」

「ええ、もちろんですよ。その分の依頼料も含めてですからね」

 今回のように作った料理のレシピなんかはすべて提供している。一応この世界にもレシピの特許のようなものはあるのだが、女神からも俺の世界の料理を広めてくれるように頼まれているし、俺だって元の世界で誰かから教わったり調べた料理ばかりだから、むしろ広めるように動いているわけだ。

 王都ならばたいていの食材は揃うし、俺が用意した肉よりも高級な肉も使えるから、教えたレシピも役立ててくれるだろう。

「むっ、こいつはうまいな。王城で料理人にでもなった方がいいのではないか……?」

「誉め言葉として受け取っておきますよ」

 シヴィさんも気に入ってくれたようだ。嫌味っぽく聞こえるが、シヴィさんは面と向かってはっきりと言うタイプだからな。相変わらず料理についてだけは俺を認めてくれているんだよなあ。

 女騎士のみんなも喜んでくれているようでなによりだ。さすがに料理人にはならないが、たまにはこうやって俺が作った料理を大勢の人に食べてもらうのもよいものである。