毒父に物資として戦地に送られた転生治癒師、無自覚チートで何でも癒しちゃいます

 数日後、僕は王妃様経由で治療の依頼を受けた。
 先日怪我をした少女が、まだ少し足に痛みを訴えているという。
 ほぼ間違いなく、前回治療を終える前に少女の体力がなくなったのだろう。
 ということで、僕とスラちゃんは馬車に乗って目的地であるダイナー男爵家に向かった。

「ケン様、お待ちしておりました。ご案内いたします」

 屋敷に着くと、使用人が僕たちを出迎えてくれた。
 玄関ホールから二階に上がる階段は二つあり、手すりが壊れた一つはロープで封鎖されたままだった。
 修理にはかなりの期間と費用がかかるなどと思いつつ、僕は二階に上がった。

 コンコン。

「失礼します、ケン様がお見えになりました」
「入って頂戴」

 案内されたのは怪我をした少女の部屋で、部屋の中から男爵夫人の声が聞こえた。
 部屋の中に入ると、先日怪我をした少女がベッドで横になっており、側に置かれた椅子に座っていた男爵夫人が立ち上がって僕に頭を下げた。
 ダイナー男爵は茶髪の短髪で夫人は赤髪のロングヘアだったので、少女は母親似の髪色なんだ。
 すると、少女は僕を見て母親にあることを言ってきたのだ。

「お母様、あの男の子がクリスを治療したの?」
「ええ、そうよ。大怪我をしたクリスを一生懸命治療したのよ」
「ふーん、そうなんだ」

 女の子は、少し不思議そうに僕のことを見ていた。
 どうやら、自身を治療したのは治療兵だと思っていたみたいだ。

「改めて、はじめまして。ケン・アスターです。あと、スライムのスラちゃんです」
「クリス・ダイナーです。治療してくれてありがとう」

 僕もベッドの側に移動して、クリスちゃんに挨拶した。
 貴族令嬢だけあって、とても礼儀正しい少女だ。
 早速追加の治療をする事にし、僕とスラちゃんはクリスちゃんに回復魔法を放った。

 シュイン、ぴかー!

「わぁ!」

 クリスちゃんは、僕とスラちゃんの回復魔法が放つ魔法の光にビックリしていた。
 確かにまだ治療の手応えがあり、今度は間違いなく完治できた。

「あっ、足が痛くないよ!」

 クリスちゃんは、ビックリした表情でベッドから降りていた。
 足をペタペタと触っていたが、これならもう大丈夫だ。

「恐らく、前回はかなりの重傷で、クリスちゃんは完治するだけの体力がなかったのかと思います」
「そういうことなのね。ケン君、本当にありがとうね」
「ありがとー」

 男爵夫人だけでなく、クリスちゃんも満面の笑みで僕にお礼を言ってきた。
 僕とスラちゃんも、無事に治療を終えてホッと一安心だ。

「じゃあ、私はケン君とお話してくるわ。クリスは、今日一日しっかりと休んでいなさいね」
「えー!?」

 男爵夫人の決定に、クリスちゃんはかなり不満そうだ。
 どうやら、クリスちゃんはかなり活発な性格みたいだ。
 僕たちも部屋を出ようとしたら、後ろから不満そうな声が聞こえてきたのだった。

「ダイナー男爵夫人のケーラです。娘が怪我をした時は、動揺していてキチンとお礼を言えませんでした。今日の治療も、本当にありがとうございます。主人のビーズリーも、ケン君に本当に感謝していたわ」

 応接室に移動し、改めてケーラさんからお礼を言われた。
 事故があった日はたまたま外に出ていたらしく、一報を聞いて急いで戻ってきたという。
 頭から落ちてしまったら、クリスちゃんは死んでしまった可能性もあった。
 僕とスラちゃんが治療できたのは、もしかしたらかなり幸運だったのかもしれない。

「実は、主人や軍に勤めている息子からケン君の話を聞いていたのよ。目の前で泣き叫ぶクリスを治療したのを見て、奇跡が起きたのかと思ったわ」

 クリスちゃんは年の離れた娘らしく、家族みんな溺愛していたという。
 そういえば、昨日軍の治療施設での治療の際にダイナー男爵がわざわざお礼を言いに来たっけ。
 とても良い貴族なのは間違いなく、ルーカス様も信頼の置ける貴族だと言っていた。
 因みに嫡男は地方へ出向しており、当分王都には戻らないという。
 そして、僕は治療の際に気になったことを質問した。

「あの、もしかしたらなんですけどクリスちゃんは魔法使いですか? 治療していたら、火魔法の反応があったので……」
「流石は凄腕の魔法使いね。放出魔法はできないけど、火魔法を使えるのよ。剣に魔力を纏わせることができるのだけど、まだまだこれからの魔法使いね」

 魔法剣や魔力を拳に纏わせることができ、魔法障壁もできるという。
 鍛えれば、中々の腕になりそうだ。
 その後も色々な話をして、僕はダイナー男爵家を後にした。
 よく考えると、クリスちゃんは初めて出来た同年代の友達だ。
 もしかしたら、これから会うことも増えるかもしれないね。