毒父に物資として戦地に送られた転生治癒師、無自覚チートで何でも癒しちゃいます

 季節も秋から冬に進み、段々と寒い日も増えてきた。
 僕の日常は、相変わらず勉強や訓練に怪我人の治療という変わらない日々を送っていた。
 毎朝剣と魔法の訓練を行っており、スラちゃんたちも負けじと張り切っていた。
 フリージアお祖母様やシンシアお姉様も度々屋敷を訪れ、僕の様子を気にかけてくれた。
 そんな中、今日は王太后様からお茶に誘われた。
 月に一回程の頻度でお茶に誘われており、僕の近況を聞くという目的もあった。
 この日も、身支度を整えてスラちゃんと共に王城に向かった。

「勉強は順調に進んでいます。ハンナおばさんをはじめとする使用人もとても良い人ですし、実家からの干渉もありません」
「そう、それは良かったわ。でも、特に実家には注意した方がいいわ。ケン君が有名になればなるほど、やっかみを抱く可能性が高いわ」

 王太后様は、常に僕に親身になって注意をしてくれた。
 この日も、実家に関する話をしてくれた。
 年内は父親も兄も特別訓練を受けていて、僕にちょっかいを出す余裕はない。
 逆を言うと、年明けから実家の行動に気をつけないといけないという。
 あの父親と兄のことだから、僕に何かやってくるのは間違いないだろう。
 僕や屋敷への接近禁止なんて、全く気にしないだろうな。
 その後は、新年の謁見と夜会の話をしたりして和やかに過ごしていた。
 しかし、この人の登場で突如として穏やかな雰囲気が変わった。

 コンコン。

「歓談中、失礼します」
「あら、ルーカスどうしたの」
「少し至急の事態が発生し、ケン君に力を貸して欲しいとお願いに参りました」

 今日は軍の施設ではなく王城で仕事をしていたルーカス様が、少し慌てながら応接室に入ってきた。
 いつも冷静なルーカス様にしては少し珍しいなと思いつつ、話を聞くことにした。

「軍幹部のダイナー男爵家の屋敷にて事故が起き、複数の怪我人が発生しています。特に、ダイナー男爵令嬢が足に重度の骨折を負っております」

 別の軍幹部がその男爵家に集まって貴族街の治安対策と現地調査に行こうとしたところ、その男爵家で事故が起きたという。
 なんと、階段の手すりが壊れて複数人が下に落ちたらしい。
 たまたま、屋敷を出ていく父親と軍の幹部を見送りに行こうとした貴族令嬢が巻き込まれたらしい。

「まあ、何ということでしょう。ケン君、話したいことは話せたからルーカスと共に治療に向かって頂戴」

 王太后様にも急かされて、僕はルーカス様とともに応接室を出た。
 正式な軍の活動中で尚且つ男爵家によるということも申請されていたので、こうして軍が動くということになったという。
 王城を出発し程なくして、目的地のダイナー男爵家に到着した。

「怪我人の手当てが先だ」
「階段から避難させろ!」

 屋敷の玄関ホールに入ると、まさに戦場みたいに怒号が響き渡っていた。
 複数の使用人が怪我をしている中、僕と同い年くらいの少女が床に寝かされていた。

「痛い、痛いよー!」
「クリス、しっかりしろ」

 真っ赤に燃えるような赤髪のセミロングヘアの少女の顔は激痛で歪んでおり、側にいる父親と思わしき軍人の問いかけにも応えられない状態だ。
 一目見て重傷だと分かり、僕とスラちゃんは急いで少女のところに駆け寄った。

「直ぐに治療します!」
「おお、ケン君か。すまんが頼む」
「いたいー!」

 どうやら、父親は軍の関係で僕の事を知っていたみたいだ。
 僕とスラちゃんは、激痛で泣き叫ぶ少女が早く元気になるようにと願いながら回復魔法を放った。

 シュイン、シュイン、ぴかー!

「く、クリス! こ、これは魔法の光?」

 治療を始めたタイミングで、玄関ホールに貴族夫人と使用人が慌てて入ってきた。
 恐らく少女の母親かと思われるが、今の僕とスラちゃんは周囲を気にする余裕はなかった。

「な、何とか治療を終えました。組織の再生に近いレベルでの治療が必要でした」
「すぅ、すぅ」

 治療の反動からなのか、少女はスヤスヤと寝息を立てていた。
 それだけ、本人の体力を消費する治療だったのだろう。

「治療は成功しましたが、本人もかなり体力を消費しています。起きてまた痛みがあるようでしたら、直ぐに治療しに来ます」
「ケン君、本当にありがとう」

 少女の父親の男爵は、涙ながらに僕にお礼を言ってきた。
 少女の母親も涙を流しながら僕にお礼を言ったが、まだ怪我をした使用人への治療がある。
 治療を終えた者は、順次担架に乗せられて運ばれて行った。

「うわあ、これは凄い……」

 何とか治療を終え、改めて折れた階段の手すりを見た。
 うわあ、基礎のところが傷んでいてボッキリと折れているよ。
 意図的に切れ目を入れた跡はないし、本当に経年劣化でたまたま折れたんだ。

「ルーカス様、他の貴族にも階段の点検などを通達出しますか?」
「通達まではいかないが、気をつけるように言おう。そうすれば、普通の貴族なら直ぐに確認をするはずだ」

 僕の屋敷にも、直ぐに点検をお願いしよう。
 後の対応は軍に任せ、屋敷もとてもゴタゴタしているので改めて僕にお礼をすることになった。
 結構な事故だったけど、全員治療出来て本当に良かった。
 ちなみに、僕の屋敷の手すりなどは全く問題なく安心したのだった。