毒父に物資として戦地に送られた転生治癒師、無自覚チートで何でも癒しちゃいます

「間もなく、陛下が入場されます」

 係の人の合図で、僕たちは一斉に臣下の礼を取った。
 ステージの袖から、陛下を始めとする王家の方々が入場した。

「皆のもの、面を上げよ」

 陛下の言葉に、僕たちは顔をあげた。
 陛下は、大広間に集まっている来賓を見回してから話し始めた。

「今日は、帝国と勇敢に戦いし者を慰労するための催しだ。ここに集まっている多くの力を得て、帝国の野望を打ち破ることができた。国を預かる者として、改めて感謝する」

 陛下はここで一旦話を区切り、そして大きな拍手が起きた。
 たくさんの兵が帝国兵を食い止めてくれたからこそ、こうして平和になったのだ。

「そして、この度戦地から戻ってきた我が息子ルーカスと、ポール侯爵家令嬢シーリアが無事に婚約する運びとなった。これも、王国に平和が訪れなければ叶わなかったことだ」

 ルーカス様の隣にシーリア様が移動し、深々と頭を下げた。
 再び大きな拍手が起きたが、一部の貴族は悔しそうな表情をしていた。
 恐らく、ルーカス様に嫁を送り込めなかったか、シーリア様を嫁にできなかったのどちらかだろう。
 しかも、さっき僕に嫌な視線を向けていた貴族だった。
 ヘルナンデス様の言う通り、厳重に警戒しないといけない。

「ケン、前に来るように」
「は、はい!」

 完全に油断していたのもあるが、まさか陛下から呼ばれるとは思ってもいなかった。
 僕は陛下の前に行くと、何故か隣に来るようにと手で合図された。
 うん、またまた予想外の展開なのですけど……

「皆の知っての通り、ケンは実の父親と兄に戦備品として見捨てられた。しかし、ケンには類稀なる治癒師としての才能があり、王国劣勢の状況を打開するために僅か六歳のその才能にかけた。国を預かるものとして幼い子どもを国境に送り、忸怩たる思いだった。しかし、ケンは余の想像を超える働きをした。その働きは、現場にいた諸君らの方がよく知っているだろう。間違いなく、一番の功績を挙げたと言っても過言ではない」

 またまた大きな拍手が起き、僕とスラちゃんはペコペコと頭を何回も下げた。
 微笑ましく見ている人が大半で、正直とても安心した。
 その間に飲み物が用意され、僕もジュースの入ったグラスを使用人から手渡された。

「それでは、国を守りし勇敢なものに感謝し乾杯とする。乾杯!」
「「「「「乾杯!」」」」」

 陛下の乾杯の音頭に合わせ、僕たちもグラスを掲げた。
 この後は来賓が陛下に挨拶をするのだが、果たして僕はどうすればいいのだろうか。

「ケンは、このまま余の隣にいればよい。ヘルナンデスも直ぐに来る」

 いやいやいや。
 陛下、僕は挨拶をする立場であって挨拶を受ける立場ではありません。
 だから、王家の方々もお祖父様やお祖母様も、ウンウンと頷かないで下さいよ。
 僕は、トホホと思いながらそのまま陛下の隣にいることになったのだ。
 スラちゃんは、いつの間にかシンシアお姉様のところに避難していた。
 正直、ズルいと思ったよ。

「陛下、お招き頂きありがとうございます」
「ありがとーございます!」
「うむ、親子で楽しんでくれ」

 オーフレア様は、前に話に出ていた家族と来ていた。
 凄い!
 紫髪のボブヘアの奥さんは超美人で、赤髪の女の子もとても可愛らしかった。
 すると、女の子が僕に向かってこんなことを言ってきた。

「あのね、おにーちゃんがかつやくしたからおとーさんらくだったっていったよ!」

 女の子に悪気はなく、ニコニコしながら言ってきたので反応に困ってしまった。
 ちょうど交代のタイミングだったので、女の子はそのまま苦笑する奥さんに手を引かれていった。
 次にやってきた人は、別の意味で凄かった。

「陛下、この度はお招き頂きありがとうございます」

 ローリーさんが恭しく陛下に礼をしたのだが、なんというかローリーさんの気合が凄かった。
 髪色に合わせたドレスは、まさに大人の色気を醸し出すものだった。
 とはいえ、陛下も何となく分かっていたみたいだ。

「ローリーよ、程々にしておくのだぞ」
「心得ております」

 陛下は、苦笑しながらローリーさんに短く話した。
 ローリー様が絶賛婚活中なのは、陛下も知っていたんだ。
 うーん、頑張ってお婿さん候補が見つかればいいですね。
 その後も多くの兵が陛下に挨拶にきて、その度に僕にも色々と話しかけてきた。
 僕も思わずニコリと話し返すことができて、とても良かった。

「ケンは、兵にとても人気がある。それだけ、真摯に治療していた証拠だ」

 陛下も、僕と兵の様子にとても満足していた。
 王家の方々も他の方も、僕と兵のやり取りにニコリと微笑んでいた。
 兵はとても良い人ばかりだし、僕の境遇もよく理解してくれた。

「陛下、この度は孫のために色々として頂き誠にありがとうございます」
「きっと、あの子の母親もとても喜んでいるはずです」

 因みに兵の関係者は陛下に挨拶できるので、エレンお祖父様とフリージアお祖母様も陛下に挨拶していた。
 陛下も満足そうに頷いて、ヘルナンデス様も思わず目を細めていた。
 挨拶はこれで終わりのはずなのだが、ここで予想外のトラブルが起きてしまった。

 ドスドス。

「おい、なんで下級貴族が陛下に挨拶している!」

 横に大きい体を揺らしている頭頂部が剥げている豪華な貴族服を着た貴族が、挨拶を終えた祖父母に唾を飛ばしながら文句を言ってきたのだ。
 酒に酔って顔が真っ赤で、もしかしたら酒に酔って気が大きくなったのかもしれない。
 予想外の展開に殆どの人がキョトンとしてしまったが、僕は内心怒っていた。

「あの、僕のお祖父様とお祖母様を悪く言わないで下さい!」
「へっ?」

 僕の思いがけない反論に、文句を言ってきた貴族はポカーンとしてしまった。
 そんな僕の言葉に、陛下も満足そうに頷いた。

「ケンの母方の祖父母だから、余に挨拶しても何も問題ない。ところで、いま一体何を言ったのか?」
「いや、その、失礼しました……」

 陛下はあくまでも真面目に答えていたが、文句を言った貴族は声も小さくなっていた。
 そして、そのまま後ろの方に下がっていった。

「今日は兵の対応が中心で、殆どの貴族が挨拶しないことになっている。だが、ノーム準男爵家だけは別だということも通知した。だから、何故特別扱いするのだと憤っていたのだろう。大抵の貴族は、理由は分かるがな」

 陛下も、かなり呆れた様子で裏話を話していた。
 僕に嫌な視線を向けていた貴族だから、何か利権でもと考えていたのかもしれない。
 こうして、何とか挨拶対応は終わり談笑の時間となった。
 すると、フリージアお祖母様がニコニコしながら僕に話しかけてきた。

「ケン君、『僕のお祖父様とお祖母様』って言ってくれてありがとうね。とっても嬉しかったわ」

 フリージアお祖母様は僕の実の祖母だし、何も間違ってはいない。
 因みに、エレンお祖父様は知り合いの貴族に「祖父母思いの孫ですな」と言われて上機嫌だ。

「ふふ、じゃあ今度はお姉ちゃんとお話しましょうね」

 僕の話から漏れていたシンシアお姉様は、有無を言わせない笑顔で僕の手を引いた。
 どうやら、僕と話をしたかったみたいだ。
 更に、元々僕に引き合わせる予定だった貴族とも挨拶し、とにかく忙しかった。
 その代わり、嫌な視線を向けていた貴族と接触することなく、とても楽しい慰労会だったのだった。