【7月刊行予定】毒父に物資として戦地に送られた転生治癒師、無自覚チートで何でも癒しちゃいます

 一週間後、僕たちは予定通り王都郊外の軍の施設から新型魔導船に乗り込んだ。
 出発後の安定飛行となったので、僕たちは魔導船内にある簡易的な会議用の部屋に移動した。

「ガルフォース辺境伯領に着いたら、辺境伯と話をして国境へと向かう。怪我人が多いので、ケン君に治療してもらうことになる」

 ルーカス様から、国境到着後のスケジュールを改めて聞かされた。
 国境を守る部隊は精鋭が多く、訓練もとても厳しい。
 怪我人は絶え間なく発生するが、多少の怪我は気にしていないという。

「国境で情報収集を行い、三日後に王都へ戻る予定だ。情報分析を行い、どのような作戦を立てるかも重要な任務だ」
「「「はい!」」」

 どの世界でも、統計の大切さを分かっている人は凄いと思う。
 これで打ち合わせは終わったので、ここから各々時間を過ごすことになる。

「これがこうなんだよ」
「うん、分かった。ケンの教え方は分かりやすいね」

 僕は、初級官僚試験の合格を目指すクリスの勉強を見ていた。
 基礎学力は高いので、後はテスト対策を行えば十分合格を目指せるはずだ。
 すると、僕たちの様子を見ていたルーカス様が、ナッシュさんにある指示を出した。

「ナッシュは、確か初級官僚試験に合格しているな。せっかくだから、上級官僚試験の勉強をするといい。教科書などは、ケンが持っているぞ」
「えっ!?」

 ナッシュさんは、ニコリとしながら言ったルーカス様に聞いていないよという反応を見せた。
 クリスも、ケーラさんに初級官僚試験を受けるように言われた時に似たような反応を見せていた。
 やはり、ナッシュさんとクリスは兄妹なのだと改めて思った。

「ふふふ、お兄様も仲間だね」
「そうだね……」

 クリスは、ニコニコしながらどよーんとしているナッシュさんを迎えていた。
 そして、僕はクリスとナッシュさんの両方を教えることになった。
 クリスの方にはスラちゃんたちもついており、僕がナッシュさんに勉強を教えている間対応してくれた。
 今年は、兄妹揃って官僚試験に挑戦だね。

「あっ、町が見えてきたよ!」

 途中寄港することもなく魔導船は飛び続け、夕方前に無事にグロリアス子爵領にある軍の施設に着陸した。
 僕たちはグロリアス子爵に挨拶するため、迎えの馬車に乗ってグロリアス子爵家の屋敷に向かった。

「道中は本当に順調でしたね。離陸や着陸も、とても安定していました」
「今日は道中風が強い時もあったが、安定飛行していた。試験飛行としては、上々の結果だろう」

 ルーカス様も、魔導船の性能にとても満足していた。
 今回の王都との往復を得て、更に問題点をブラッシュアップするという。
 そして馬車に乗ってグロリアス子爵家の屋敷に到着したのだが、ここでナッシュさんが大失態を犯してしまった。

「皆様、王都からの長旅お疲れ様でした。グロリアス子爵家当主のマヤと申します。どうぞ、応接室へご案内します」
「「こっちです!」」

 久々に会ったマヤ様は、年齢よりもずっと若々しかった。
 初めて会った時はマヤ様の側でギュッとしていた二人の男の子も、とても大きくなっていた。
 しかし、ナッシュさんはマヤ様の別のところを見ていたのだ。

「凄く、大きい……」

 ナッシュさんは、どうやらマヤ様の大きなお胸に釘付けだったみたいだ。
 だが、ぼそっと呟いたつもりがこの人にバッチリ聞こえていたみたいだ。

「お母様とコリーナさんに言いつけよう! お兄様、不潔です!」
「ちょ、ちょっと。それは待ってくれ!」

 クリスと頭の上に乗っているスラちゃんたちが、思いっきりジト目でナッシュさんを見ていた。
 こればかりは、僕もフォローできないなあ……

「うん? どうしたのですか?」
「いえ、何でもないです。兄妹のじゃれ合いです」
「兄妹仲良くていいですわね」

 クリスが上手く誤魔化してこの場は何とかやり過ごしたが、ナッシュさんにとって大きな失敗だった。
 聡いルーカス様も直ぐに気が付き、少し呆れていた。

「ルーカス様とケン様のご活躍は、常々聞いておりますわ。ケン様も、初めて会った時からとても大きくなっておりますわ。段々と、イリス様に似てきていますわね」

 僕たちは、改めて玄関から応接室に移動した。
 マヤ様は、大きくなった僕のことをとても喜んでいた。

「えっと、マヤ様はケンのお母様を知っているのですか?」
「ええ、そうなのよ。昔お会いしていまして。優しい性格などもそっくりですわ」
「確かに、ケンはとても優しいですね。この前も、保護した魔物のブラッシングをしていました」

 クリスは、僕の話題でマヤ様とにこやかに話をしていた。
 共通の話題があって、話しやすいのだろう。
 そして、ナッシュさんはただニコリとしているだけだった。
 恐らく、これ以上の失態をしないためなのでしょう。
 僕とルーカス様もマヤ様と話しをして、にこやかなうちに挨拶は終了した。
 かと、思われた……

「ふふ、程々にお願いしますわ」
「あっ!? も、申し訳ありません……」

 帰り際に、マヤ様がナッシュさんに小声で耳打ちをしたのだ。
 マヤ様は最初からナッシュさんの視線に気がついていて、会談中気まずくならないように配慮していたんだ。
 今回は、完全にマヤ様の方が一枚も二枚も上だった。
 うん、王都に帰ったらケーラさんとコリーナさんに、ナッシュさんをお説教してもらおう。
 僕ではなく、クリスがそう意気込んでいたのだった。