【7月刊行予定】毒父に物資として戦地に送られた転生治癒師、無自覚チートで何でも癒しちゃいます

 新年から続いたドタバタもようやく落ち着き、僕は普通の生活に戻った
 いつもの貴族家からの治療の指名依頼、軍と教会の治療施設での治療、軍での訓練、王都内の教会での巡回奉仕活動。
 更に知り合いの貴族からのお茶会にも呼ばれ、定期的に王太后様やフリージアお祖母様に生活の様子を報告していた。
 引き続き様々な勉強もしており、本当に日々が目まぐるしく動いていた。
 ただ、充実感のある生活が続いていたのは間違いなかった。
 そんな中、僕にある依頼が舞い込んできた。

「えっと、王国直轄領での奉仕活動と治療ですか?」
「そこそこ規模の大きな直轄領が行き先だ。鉱山があるところで、慢性的に怪我人が多く出ている」

 ある日軍での魔法訓練後に軍の施設の事務棟会議室で、僕はルーカス様とヘルナンデス様に呼び出されていた。
 山がちな土地柄で薬草の生育もそこまで良くないらしく、治療もひと苦労だという。
 教会も何とか対応しているらしいが、実はこんな理由もあるとヘルナンデス様が話を続けた。

「どうも、街道に飢えたオオカミが出現しているらしい。駐留軍の活動も強化しているが、その分新たな怪我人が出ている。定期的に王都からの部隊を派遣しているが、今回は急ぎで対応することになった」

 つまり、街道巡回も行わないといけないんだ。
 もちろん、僕だけでなく他の兵も派遣するが迅速に対応しないといけないとても重要な任務だ。
 僕はまだ未成年で上級官僚や軍として動けないため、宮廷魔導師として対応にあたるように任命された。
 スラちゃんたちもやる気満々だったが、ルーカス様は追加情報としてこんなことを言ってきた。

「今回行く直轄領には、有名な温泉地がある。事態収拾後になるが、クリスちゃんと共に温泉でゆっくりすると良い」

 水着や湯浴み着を着れば、混浴できる温泉があるという。
 前世でも温泉には行ったことがなく、僕もちょっと楽しみだ。
 ただ、クリスはまだ未成年でダイナー男爵家の人間だ。
 大丈夫なのかなと思ったら、実は既にこんな手を打っているという。

「今回部隊を率いるのが、そのダイナー男爵だ。父親同伴だから、何も問題はない。ダイナー男爵も、未来の義息子と一緒に温泉に入ることを楽しみにしていると言っていたぞ」
「あと、ケン君の祖父母にも話を通している。ノーム準男爵も、直轄領の財務監査で同行することになった。他の財務官僚も現地に向かうという」

 流石はルーカス様とヘルナンデス様、既にバッチリと手を打っていた。
 ということで、保護者同伴の王国直轄領での作業が決定した。
 一週間の作業を予定しているらしいが、現地の状況次第で滞在が延長になる可能性があるという。
 こればかりは、現地に行かないと何とも言えなかった。
 出発は二日後で、王都郊外にある軍の施設に行き、魔導船で現地に行く予定だ。
 話はこれで終わり、僕は屋敷に戻って出発の準備をすることにした。

「話は伺っております。出発に必要な荷物は全て揃えております」
「……」

 屋敷についてハンナおばさんに説明をすると、既に全て終わっていた。
 流石ヘルナンデス様とルーカス様、僕の屋敷にも話をしていたんだ。
 僕の場合、大量の荷物があっても魔法袋に収納できる。
 更に、洗濯できなくても生活魔法である程度綺麗にできた。
 取り敢えず、十日間分の服や荷物を持っていくことにした。
 念のためにノーム準男爵家とダイナー男爵家に説明に行ったが、こちらも何も問題なかった。
 こうして、僕はほぼ何もやることなく直轄領へ向かう準備ができていたのだった。

「ふふふ、みんなと一緒に温泉に行くのがとても楽しみだなあ」

 二日後、僕は全ての荷物を魔法袋に詰め込んで軍の迎えの馬車に乗りこんだ。
 どうやら僕が一番最後らしく、今回先発隊として向かう全員が馬車に乗っていた。
 クリスは、スラちゃん達と共に既に温泉モードになっていた。
 とはいえ、先にやらないといけないことを頑張らないと。
 そんな中、僕はあることに気がついた。

「エレンお祖父様、上司の方はどうしたんですか?」
「その、彼は高所恐怖症でな。魔導船に乗ったら、心臓が止まりそうだと言ったのだよ」

 確かに、高所恐怖症なら無理に魔導船に乗ることは不要だろう。
 因みに、馬車でも翌日夕方には到着するという。
 魔導船なら、本日の夕方前に到着する。
 到着にそこまでの差がないのなら、馬車でも大丈夫だ。
 ということで、僕たちを乗せた馬車は無事に王都郊外の軍の施設に到着した。

「皆様、お待ちしておりました。出発の準備はできております」
「うむ、ご苦労」

 魔導船の前で兵の出迎えを受け、ダイナー男爵が挨拶をした。
 そして、僕たちは魔導船の客室に乗りこんだ。

「間もなく、魔導船が出航します。皆様、お近くの手すりなどにお捕まり下さい」

 船内アナウンスがあり、僕たちは椅子の手すりに捕まった。
 程なくして、魔導船はふわっと上昇を開始した。
 久々の魔導船なのだが、毎年飛行が安定してきていると感じた。
 いよいよ、直轄領への飛行の開始だ。