幼馴染が俺の好みに寄せてくるんだが

 あの告白から一週間。今日は誠矢の誕生日だ。
 この一週間は、すごく長く感じた。事あるごとに誠矢の顔が頭に浮かんだり、親との会話で誠矢の名前が出るたびに狼狽えてしまったり、誠矢の夢まで見たりと全く落ち着かなかった。
 未だにどんな顔をして会えばいいか分からないけれど、誕生日くらいはちゃんと祝ってやりたい。告白の返事がどうであれ、誠矢は大切な親友で幼馴染であることに変わりはないのだから。
 いつもより緊張しながら誠矢の家のインターホンを押す。少しの間を置いて、そっと玄関が開いた。
「潤太、いらっしゃいませ」
「お、お邪魔します」
 目が合った瞬間、思わず心臓が跳ねた。俺、変な顔してないかな。
 二階に上がって部屋に入ると、ローテーブルの上に俺の好きなスナック菓子が用意されていた。
「お前さぁ……誕生日なんだから、自分の好きなお菓子買えよ」
「いつもの癖で、つい……。でも俺もこれ好きだよ」
 長年の習慣が染みついてしまっているらしい。しょうがない奴だな。でもそれだけ俺のことを考えてくれているのだと実感してむず痒くなる。
「潤太、ジュース飲む?」
「ジュースもいいけど、今日はこっちにしよう」
 背負っていたリュックを下ろし、中から茶色い不織布製の袋を取り出す。袋の口を留めている赤いリボンは、ネットで調べたおしゃれな結び方を俺が見よう見まねでやってみたものだ。難しくて少し歪んでしまった。
「誕生日おめでとう、誠矢」
「ありがとう……!」
 誠矢は目を輝かせながら袋を受け取った。中身は誠矢が好きなドリップコーヒーと、学校で使えそうなちょっといい多機能ボールペンだ。
「大したものじゃないけど」
「ううん、すごく嬉しい。本当にありがとう」
「……ん」
 誠矢は毎年誕生日プレゼントを喜んでくれるけれど、今年は特に嬉しそうに見える。なんだか照れくさくなってきて、俺は誤魔化すようにタブレットに手を伸ばした。
「と、とりあえず映画観ようよ。今日は一日中、誠矢の好きな映画を観るんだぞ」
「うん……でもいいのかな」
「今まで合わせてもらってたし、今度は俺がとことん付き合うよ」
「うーん……」
 誠矢の返事ははっきりしない。まだ遠慮してるのかよ。
「いいから、今日は俺に合わせるの禁止!」
 こうでも言わないと駄目らしい。誠矢は躊躇いがちに頷き、コーヒーを淹れるためにキッチンへ向かった。後ろ姿が見えなくなり、ほんの少し息をつく。
 良かった、結構普通に喋れるな。



 ……なんて安堵したのも束の間、俺は早速ピンチに陥っていた。
 誠矢が選んだのはホラー映画だった。よりによって俺が最も苦手なジャンルだった。特に和製ホラーのじわじわ来る怖さは日常のふとした瞬間に思い出してしまうので、普段はCMすら見ないように気をつけているほどだ。
「潤太、やっぱり他のにしようか」
「誠矢は観たいんだろ」
「でも、潤太は怖いの嫌でしょ」
「怖くねーよ! こんなのフィクションだって分かってるし」
 映画の舞台はとある田舎町。古い一軒家に引っ越してきた主人公が、家の中で様々な怪異に見舞われるというものだ。
 俺はなるべくタブレットの画面の端を見るようにしていた。これは全て作り話だと自分に言い聞かせる。脚本があって、出演しているのはみんな人間だ。……でもホラーの撮影の時ってお祓いに行くとか言うよな。やっぱり変なことが起きたりするのかな……。いやいや、余計なことを考えるのはやめよう。
 幸いにもびっくり系の演出はないが、派手ではない怖さが身に沁みて背筋がぞくりとする。
 場面は深夜の廊下に切り替わった。BGMはなく、ゆっくりと歩く主人公目線のカメラワークに、廊下が軋む音だけが響く。来るか、来るのか、絶対来るだろ……! 心臓がばくばくと鳴り、背中に冷や汗が伝ったその時。
「潤太」
「うわあ!? な、なに!?」
 いきなり名前を呼ばれ、飛び上がるほど驚いた。
「怖いならやめよう」
「こ、怖くないって!」
「でも、えっと……手が……」
「え?」
 ちらちらと俺を見る誠矢に釣られて視線を落とす。俺は無意識のうちに誠矢の袖にしがみついていた。距離の近さに気づいた直後、顔が熱くなる。
「あっ……ご、ごめん」
 慌てて手を離す。誠矢はうっすらと頬を染めながら小さく頷いた。
 今のなんて、些細な接触だ。友達、ましてや幼馴染ならあのくらいの距離感はおかしくない。でも、こいつは俺のことが好きなんだと思うと心がざわついた。
 隣に目を向けてみると、誠矢も同時に俺を見た。視線が交じり合い、咄嗟に前を向く。
 なんでこんなにドキドキするんだよ。いや違う、これは映画が怖かっただけで、そういう意味じゃない。きっと吊り橋効果ってやつだ。
 怖いシーンが終わっても、うるさくなった胸の音はなかなか治まらなかった。