【完結】イケメンのクラスメイトと二人組になったらめちゃくちゃ執着されてた

 
「聖夜くん綿辺くん、おはよー。あっねえ、聖夜くんが演劇部の舞台にでるってほんと?」

 夏休み明け。
 ようやく長期休みボケが治ってきたところ、俺と聖夜が登校して教室に行くなり聖夜が女子からそう尋ねられていた。

 ……ちなみにライブ配信の余波はとんでもなかった。
 ネット上ではしばらく『あのイケメンの恋人はだれだ』『特定しろ』『関係者席だ』『待てあそこには男しかない』と犯人捜しならぬ恋人捜しがつづき、クラスのグループラインでは『聖夜と綿辺くんがつきあってると思うひとー?』という地獄のアンケートが取られていた。

 しかも俺とたっくん以外の全員が『絶対つきあってる笑』『いろいろ怪しかったもん笑笑』となぜか笑いながら肯定し、当の聖夜は『ご想像にお任せします』とはぐらかす気のないはぐらかしをしていた。
 俺は必死に否定したけど絶対逆効果だったと思う。たっくんには泣かれた。

 そのせいで夏休みが終わってもクラスメイトたちにはしばらくからかわれたけど、ようやくべつの話題に切りかわりつつあるらしい。
「ほんとだよ」と俺も初耳だった話に聖夜が笑って応える。

 マジで、と近くにいた女子たちが集まってきた。
 前まではこういうとき俺はうつむいてたけど、なんとか顔を見る余裕がでてきた。みんなとばっちり目を合わせるのはまだできなくても。

 あの日のことは――すこしずつ、俺の中で過去になろうとしている。

「何役やるの!? あっわかった、絶世の王子さまだ!」
「主演だよね!?」
「まさか。ほんのちょっとしゃべるだけだよ。主人公の相棒と見せかけて実はずっと裏切ってたっていうキャラクター――ああ、ネタバレしちゃった」
「えー、聖夜くんのイメージと全然ちがうー!」

 どおりだよ。俺の中では。むしろ。

「でもなんで演劇部? 入ったの?」と女子。聖夜は「ただの助っ人」と否定した。

「演劇部のひとに借りができちゃって。じゃあ出演して返してくれって」
「借りってなあに?」
「射的の道具を作ってもらったんだよ。実際にやってみたらゲームも上手くなるかと思って」
「えっ、すごい。聖夜くんって努力家だよね!」

 集まってきた女子たちはみんな配信を見ていたらしい。
 目をきらきらさせる彼女たちを眺めながら、俺は聖夜がいつそんな練習をしていたんだろうと不思議に思った――。




 それから数日後。

 昼休み、うっかり出しわすれていた宿題を教員室まで提出してきたあとで俺は聖夜が中庭でだれかと話しているのを見かけた。

 すぐに話が終わるなら一緒に部室にいこう。そう思って俺は一階の渡り廊下の途中で足を止める。

 相手は知らないひと……だと思ったけど、なんとなく見覚えがある。
 去年の文化祭。演劇部のステージで怪盗役をやっていた先輩だ。名前までは憶えてないけど、ラテン系の彫りの深い顔立ちが印象的で顔だけは憶えている。

 ――ああ、演劇部のうちあわせか。

 そういえば聖夜が舞台にでるとかどうとか。
 ならもっと時間かかるかな、やっぱり先に行こうか――そう思ったとき風向きが変わってふたりの会話が聞こえてきた。

「……だけ……そうに……おまえは……」
「ええ……なんて……」
「……本気……」
「それに……言って……」

 なにか引っかかるものがあった。なんだろうと考えて、演劇部の先輩の声に聞きおぼえがあるのだと気づく。

 去年ステージを見たんだから聞きおぼえがあるのはあたりまえだ。だけど、そのときだけじゃなくて――

『おまえのこと、一生許さないから』

 ――原田……?

 いや、気のせいだ。勘違いに決まってる。でも先輩がしゃべればしゃべるほどその疑いは確信に変わっていく。
 俺が電話で聞いた原田と、いま聖夜が話している先輩の声はそっくりだった。

『演劇部のひとに借りができちゃって』

 ……なあ、と俺は聖夜に心の中で尋ねる。
 演劇のひとに借りができたってなんの話だよ。演技が上手いそのひとになにをさせたんだよ。

 なあ、聖夜。

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 そのとき演劇部の先輩が俺に気づいた。彼が共犯者めいた目くばせを聖夜にすると、聖夜も俺のほうを見る。そして偶然出くわしたかのように笑顔で手を振ってきた。

 俺は――さっき途切れ途切れに聞こえてきた会話を頭の中でつなぎあわせる。

 ――だけど、可哀想に。おまえはそいつのこと根こそぎほしいんだろ? 騙してでも。
 ――ええ。ナツを縛る過去なんて邪魔なだけです。ナツには俺だけでいい。
 ――それに、大丈夫ですよ。
 ――俺は言ってありますから。

 ――俺はこれからナツを100回裏切って、101回助ける。ナツのぜんぶは俺のものだ、って。

 先輩との話を切りあげて聖夜が俺のところへ歩いてくる。手を振りながら――幸せそうに。

 それは、
 あまりにも、
 完璧な『彼氏』としての姿で、

 ……俺は。逃げたいと思うことさえできずに、その微笑みを見つめていた。




 ――了