学校一のモテ男子が、なぜか俺にだけ甘えてくる ──イケメン甘えん坊男子×保護者系眼鏡男子の学園BL

佐久間さんが、今日の学級日誌の備考欄に「王太陽くんと佐久間律くんは羨ましいほど仲のいいふたりです」なんて記入してるとは夢にも思っていないおれは、ついしげしげと王太陽の顔を見てしまった。

「やめるの? バレー部」

 2、3分で、デカいハンバーガーふたつをたいらげた王太陽は、らしくもない、どこかアンニュイな眼差しを斜めに落として、言った。

「……うん。そう思ってる」
「てか、まだ入部してないだろ?」
「そうだけど」

 まだ入部してないバレー部を一体どうやってやめるのか。

 不思議に思いながら、おれは、コーヒーをひとくち飲んだ。

「なんで? 兼部、難しそう?」

 口先だけで、適当に訊いたおれに、王太陽は、その眉根を寄せ、切なそうな表情を見せた。

「だって、律は入んないんだろ? バレー部」
「入るわけないじゃん」

 けんもほろろに答えて、おれは、フライドポテトをつまんだ。

「遊びでやるバレーボールは好きだけど、本気のバレーはやりたくない。てか、無理だ。本気のサーブとかアタックとか、レシーブできないって。おれ、ふっとんじゃうよ」
「そうかもな」
「わかってるんなら、誘うなよ」
「いや、何もリベロ(※注 守備専門ポジ)にこだわらなくても、いいんじゃないか? アウトサイドヒッター(※注 花形エースポジ)とかセッター(※注 頭脳ポジ)とかもあるんだし……」
「もしかして、おれにケンカ売ってる? それとも、イライラしてる?」

 おれは、ポテトを三本まとめて、口に突っ込んだ。

 王太陽は、ふっと目線を落とすと、吐息をついた。

「おれが、律にケンカ売ったり、八つ当たったりするわけないだろ?」

 なまじいい男なだけに、どこか苦悩しているような様子の王太陽には、色気すら感じられた。

 男の色気とか大人っぽさとか、まだ高1のくせして、王太陽は当たり前のようにもっている。

 たぶん、おれは、一生無縁だ……。

「……なあ、律」
「なに」
「バレー、ほんとにダメ?」
「ダメ」
「りっくん」
「やだよ」
「りっちゃん」
「却下」
 
 太陽は黙った。

 おれは、チキンナゲットに指を伸ばした。

「……好きなんだろ? バレー」
「好きだよ」
「じゃあ、やればいいじゃん。おれなんかに構わず」
「律と一緒じゃなきゃ、やだ」
 
 さらっと幼稚園児並みのことを言われて、今度はおれが黙る番になった。

「じゃさ……水泳部は?」
「言ったろ。おれのクロールは、いくらバタ足したって、前に進まないんだよ」
「じゃあ、バスケ」
「背、足りない」
「陸上」
「鈍足」
「サッカー」
「鈍足」

 太陽は、とうとうテーブルに肘をついて、額を押さえた。

「……難易度、高すぎだろ」
「おれを何だと思ってんの」
「一緒に楽しいことしたい相手」
 
 ぽつっと落ちた言葉に、胸の奥が少しだけざわついた。

「……別に、部活じゃなくてもいいじゃん」

 言いながら、コーヒーを飲む。

「えー、部活じゃないと、ダメ」
「なんで?」
「卒業アルバムでさ、写真撮るじゃん。部活ごとの。あれで、律と一緒に写りたいんだよね。三年間一緒にがんばった仲間ですー、みたいな顔して」
「……卒業、ってもう考えてんの? まだ入ったばっかじゃん」
「卒業なんて、あっという間だよ。中学、早くなかった?」
「……まあね」
「律だって、部活やりたいんだろ?」
「まあね。でも、体育会より、文化部だな、おれは」
「文化部……」

 王太陽は、テーブルを、バシッとたたいた。
 
「わかった! じゃあ、そっち方面でみつくろっとく」
「えー……」
「真面目に考えるから、大丈夫だってば」

 気を取り直したように、王太陽の顔つきが、明るくなった。

「じゃあそう決まったとこで、ゲーセンでも行くか!」
「そうだな」

 ふだんどおりになった王太陽にほっとしながら、おれは、応えた。

「ふたりでゲーセン行くの、はじめてだなぁ。記念に、プリクラ、撮ろ」

 自動ドアを通って、外に出ながら、乙女のような、素直なうれしそうな表情で、王太陽は言った。

 本当にいろんな顔をもったヤツだ。

 おれは、笑って、頷いた。

 おれに何の断りもなく茶道部へふたり分の入部届けを王太陽がだすのは、この明後日のことになる━━。